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[標本番号:No.174   採集日:2007/04/07   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ヤノネゴケ   学名:Bryhnia novae-angliae]
 
2007年4月13日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 このコケも昨日取りあげたカモジゴケ同様に、栃木県北部標高860mの沢沿いで、腐植土から腐木の側面にかけて出ていたものだ(a, b)。暗褐色〜チョコレート色の凾つけていた(c)。写真には写っていないが、帽に毛はない。
 茎は這い羽状に多くの枝を出し、随所に鞭状の枝を伸ばしている(d)。茎葉(e)も枝葉(f)もよく似た形をしているが、茎葉の先端は長く伸びたものが多い(e)。中肋は葉長の3/4ほどある。枝葉は深く凹んでいるため、カバーグラスをかぶせたところ、基部の側が破れてしまった(f)。
 葉先(g)から全周にわたって小さな歯がみられる(h)。葉身細胞は線形で、葉の中央部付近では、長さ30〜6555μm、幅3〜8μmだが(i)、葉先(g)や葉縁(h)では、短くて幅広になっている。翼部の細胞は、大型の矩形で他の葉身細胞とは形が全く異なる(j)。
 葉の横断面の写真は、ここでは枝葉(f)ではなく、茎葉(e)を切り出したものを掲げた。葉の基部付近(k)と、中肋の先端付近(l)を切り出してみた(m)。この両者を見ると、中肋の部分の細胞層の厚みが次第に薄くなることがわかる。茎の断面をみると、表皮細胞は厚膜の小さな細胞で、内部には、ごくわずかに中心束らしきものがみられる(n)。
 凾つけていたが、大部分は帽を失い、蓋も開いた状態だった。凾ヘ傾いて着き非相称で、内外それぞれ16枚の剋浮もち、外剋浮ヘ短い(o)。剳ソは全面にわたってパピラがある。ルーペでは分かりにくかったが(p)、顕微鏡で見るとパピラの様子は明瞭になった(q, r)。

 茎が這っていること、葉が尖り、中肋は1本で葉長の1/2以上あり、葉身細胞が線形でパピラを持たず、翼細胞が分化し、凾ヘ傾いて非相称、内外の剋浮もつこと、などからアオギヌゴケ属には間違い無いだろう。アオギヌゴケ属の検索表をたどった。
 観察した特徴を考慮して、二つに分かれる枝を次々とたどっていくと、残ったのはハネヒツジゴケコマノヒツジゴケとタニゴケだった。剳ソの全体にパピラがあることが、検索表をたどるのをかなり容易にしてくれた。残った2つの種についての記述を読むと、ハネヒツジゴケコマノヒツジゴケならば帽に長毛があるという。また、タニゴケであれば、葉の翼部が広く茎に下延するという。そこで、あらためて、実体鏡で確認すると、確かに葉の基部は茎に下延している。
 どうやらタニゴケ Brachythecium rivulare としてよさそうだ。同種は先に自らだけでは同定できず、専門家に見ていただいた経緯がある(覚書2007.2.21)。

[修正と補足:2007.04.13 pm12:00]
 朝令暮改である。ケアレスミスが甚だしいことに気づいたので、本文をいくつか修正した。まず、最初に写真(i)が別のものと入れ替わっていた。サムネイルは正しいが、クリックすると別の写真がロードされてしまっていた。また、葉身細胞であるが、葉の中央部付近で、長さ「30〜65μm」は誤りで、正しくは「30〜55μm」である。次に、ハネヒツジゴケと書いた部分はコマノヒツジゴケと書くつもりを誤ったまま気づかずにアップしたものだ。

[修正と補足:2007.04.13 pm1:30]
 何人かの識者の方から「タニゴケではない」あるいは「タニゴケではなくヤノネゴケではあるまいか」とのご指摘を受けた。タニゴケはこのように「急に細くなって先が延びる」ような尖り方はせず、細胞長もほとんど80μm前後で、翼部はさらに大きく明瞭で、境界も明瞭だという。
 あらためて、以前タニゴケと同定された標本(No.105)と比較してみた。この標本No.174の葉では、茎葉も枝葉もともに、葉先は急に細くなって尖ったものが多い。また、葉身細胞を再確認してみると、タニゴケより短く、背面の端には小さな目立たないパピラがあった(i)。
 葉身細胞にパピラがあり、翼部の分化が弱いことを考慮して、あらためて、アオギヌゴケ科の属の検索表を冷静にたどるとヤノネゴケ属にたどりつく。次に、ヤノネゴケ属の種の検索表をたどると、ヤノネゴケ Bryhnia novae-angliae とするのが妥当と思われる。
 ご指摘下さった識者の方々に感謝いたします。ありごとうございました。