Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.186   採集日:2007/04/07   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ウチワチョウチンゴケ属   学名:Rhizomnium sp.]
 
2007年4月26日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 鬼怒川温泉周辺で採集したコケがまだひとつ残っていた。落ち葉の堆積する沢の濡れた岩から出ていた(a, b)。遠目にはケチョウチンゴケのように見えたが、近寄ってルーペでみるとちょっと様子が違う。上から見ると多数の丸い粒が見える(c)。縦に切ってみると、緑色で多細胞からなるヘチマ形の組織と、先端に団子をつけたような黄褐色の棒状のものが並んでいる(e, f)。これはいずれ生殖器となる組織なのだろうか。茎は長さ2.5〜3.5cmで、直立している。
 緑色の柔らかい葉を最初に観察してみた。葉は茎の上部にかたまってつき、長さ6〜8mm、倒卵形〜軍配形をしている(g)。全縁で葉の先端は尖ることもなく(h)、葉の縁はやや細長い細胞が舷をつくっている(i)。葉身細胞は、多角形で、長径60〜100μm、短径40〜80、中肋は葉頂までは届かない。葉の横断面をみると、中肋にはステライドはなく、中肋に隣接する細胞は他の部分と同じようなサイズ(k)、舷の部分では細胞が2層になっている(l)。
 茎の下のほうには、緑褐色で中肋と舷が赤褐色の葉がついている。その部分を観察してみた。形は若い緑色の葉と同じだが(m)、葉頂が軽く尖り(n)、舷がさらに明瞭になっている(o)。葉頂部の舷の様子が若い葉とやや異なる(h, n)。葉身細胞は、六角形のものが多く、若い葉よりもやや大きめで、長径90〜120μm、短径50〜80μm、全体に角張っている(p)。葉の横断面をみると、中肋や舷の構造は若い葉と同じようだ(q)。
 茎の断面をみると、表皮は厚壁の小さな細胞からなり、茎全体が五角形となっている(r)。仮根には、太くてやたらに枝分かれしたものと、細くてあまり枝分かれしないものとがある。仮根は茎の下部にのみあり、上部にはほとんどみられない。

 茎の下部には小さくて褐色の葉がまばらにつき、ほとんどの葉が茎の上部にまとまってつき、匍匐する茎はない。葉は倒卵形、葉縁は全縁で、舷が発達している。葉身細胞は大型の多角形。これらから、ウチワチョウチンゴケ属 Rhizomnium まではよいだろう。
 観察結果は、セイタカチョウチンゴケも考えられるが、はたして観察した2タイプの仮根が、大仮根と小仮根なのかわからない。若い葉の頂の舷を構成する細胞からは、ケナシチョウチンゴケも考えられる。ハットリチョウチンゴケの可能性も否定しきれない。仮根の先に糸状の無性芽はみられないが、ケチョウチンゴケの可能性も否定できない。
 結局、どれも決定的な決め手に欠く。今朝の時点では Rhizomnium とまでしかわからない。

[修正と補足:2007.06.24]
 6月はじめに岡モス関東の日光合宿の折りに、専門家の意見を伺う機会があったが、正確に種名まで同定するのは難しく、現時点では Rhizomnium sp. として扱っておくのが妥当だろうとの意見を頂いた。なお、写真(f)の奇妙な組織は側糸、ヘチマ形の組織は雄器だとのことである。
 おなじく、標本番号No.213のアオギヌゴケ属 Brachythecium sp. についても、胞子体をつけていないこともあり、アオギヌゴケ属から先、種名まで判明することはむつかしそうだ。