Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.232   採集日:2007/05/08   採集地:栃木県、日光市]
[和名:タニゴケ   学名:Brachythecium rivulare]
 
2007年7月8日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
 日光の裏見の滝近くの沢で、川脇の岩盤や周辺のしばしば水流にひたる位置に、鮮やかな黄緑色のコケが群生していた(a〜c)。茎は大きく斜上する枝をだし、鞭のような枝もつけている(d)。葉は乾燥しても縮まずわずかに茎に接着し、乾湿であまり姿をかえない(e)。
 岩をはう茎は長さ4〜8cm、枝は長さ0.8〜2.5cm、やや疎に葉をつけ、茎や枝に毛葉などはない(f)。葉は三角状の卵形で、先端がごく短く尖り、長さ、1.8〜2.5mm、深く凹み、基部が広く下延する(g〜i)。葉縁には全周にわたって、微細な歯があり(k)、中肋が葉長の1/2〜2/3に達する。
 葉身細胞は、葉の中程では長楕円形〜線形で、長さ70〜100μm、幅6〜12μmで平滑(j, k)、先端部では菱形〜長菱形で、長さ20〜40μm(l)、葉基部の下延部では、透明で大型の矩形細胞が明確に区画を分けている(h, m)。葉の中程で横断面を切り出してみると、中肋は弱くステライドの発達は悪い(n)。茎の表皮細胞は、厚壁の小さな細胞からなり、中心束がみられる(o)。

 この蘚を観察したのは、かなり前だった。アオギヌゴケ科かヤナギゴケ科だろうと考えたが、どの属に落ちるのか分からず、しばらく放置してあった。いくつかの検索表で属のあたりをつけては、該当する種についての記載を読んでみたが、なかなかしっくりとくる種がない。
 胞子体が着いていれば、かなり有力な形質を見つけることができるのだろうが、残念ながら胞子体をつけたものはなかった。今朝あらためて、いくつかのポイントを整理して、複数文献で検索してみた。どうやらアオギヌゴケ属らしい。
 まず、水際やしばしば水没する環境にでる。枝が不規則に分枝し立ち上がる。ところどころに鞭状の枝をつける。葉は乾燥しても縮まらず、茎に軽く接着する。葉が広卵状三角形で、中肋は1本、基部が下延する。葉身細胞は長楕円形〜線形、下延部が他とは明瞭に違う。茎の表皮細胞は小形で厚壁。アオギヌゴケ属の検索表から割り出されたのはタニゴケ Brachythecium rivulare だった。タニゴケはかつて観察しているが、そのおりもやはり独力では種名にまでたどり着けなかった(標本番号No.105)。次回タニゴケに出会っても、多分また迷うことだろう。