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[標本番号:No.293   採集日:2007/07/22   採集地:三重県、いなべ市]
[和名:ヒメシノブゴケ   学名:Thuidium cymbifolium]
 
2007年8月10日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月三重県までウロコケシボウズタケ Tulostoma squamosum を観察に行ってきた。幼菌が、沢縁の濡れた石垣を被うシノブゴケ科の群(a, b)の中からでていた。Tulostoma がコケの中から出るケースはかなり少ないので、蘚の種を確認する必要がある。
 シノブゴケ科には間違いないのだが、いくつもの個体で、茎の途中から新しい枝を伸ばしている姿が特徴的で、イワダレゴケを連想させられた(c)。茎や枝の表面は一面に毛葉に覆われている(d)。茎葉は縦皺が目立ち、先端が急に細くなっているが、多くは透明尖をもたず(d, f)、さんざん探してようやく長い透明尖を持った茎葉を見つけることができた(e)。
 茎葉は、ほぼ三角形で縦にシワが多く、太い中肋が先端に達する(e, f)。葉先は長く透明な尖を持った葉もあるが(e)、透明尖を全く持たないものが多い(f)。茎葉の葉身細胞は矩形〜多角形で長径8〜20μm、細胞の背側に一つの乳頭がある(g, h)。
 枝葉は茎葉に比較して非常に小さく、中肋は尖端には届かない(i)。葉身細胞は丸みを帯びた矩形〜多角形で、背面に一つの乳頭を持つ(j)。毛葉の細胞は、中央付近の片側に乳頭があり、先端の細胞は細くならない(k)。茎を横断面でみると、厚壁の小さな細胞が表皮をなす(l)。

 当初、茎葉に長い透明尖を持ったものがなく、同定作業にかなり戸惑った。たいていの検索表では、尖った茎葉をもつものは、「透明尖を持つか持たないか」で、二つに分かれる。ここで、透明尖を持たないをたどると、落ちるところは、オオシノブゴケしかない。
 ところが、オオシノブゴケについての記述をじっくり読むと、観察結果とは合わないものが多い。外見的にも、この標本は見た目に硬い感じで、どちらかというと、トヤマシノブゴケと同じか、それよりも硬いという印象を受ける。
 そこで、あらためて、茎のあちこちの葉をじっくりと観察してみると、到るところに長い透明尖を持った葉を見つけることができた(e)。そこで、再び検索表をたどると、ヒメシノブゴケに落ちた。茎葉にも枝葉にも、全体にわたって、一つの乳頭を持った細胞がみられる。