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[標本番号:No.353   採集日:2007/10/12   採集地:奈良県、天川村]
[和名:ヒメクラマゴケモドキ   学名:Porella caespitans var. cordifolia]
 
2007年10月27日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 和歌山市から奈良県の大台ヶ原に向かう途中、天川村の御手洗峡に寄った。渓谷沿いの遊歩道の脇の岩にクラマゴケモドキ科と思われる苔がビッシリと厚い層をなしていた。カメラを持っていなかったので、生態写真は撮れなかった。持ち帰って一部を撮影した(a)。
 茎は、長さ4〜8cm、数回羽状に平面的に分枝する。葉を倒瓦状につけ、背片の背側の縁が茎の反対側まで張り出している(b)。腹側をみると、長舌形の腹片があり、卵形の腹葉がある(c)。
 背片は広卵形で、長さ1.5〜2mm、全縁で、先端が毛状に突出し、背縁基部は茎をこえて反対側にせり出し、幅の狭いキールで腹片に繋がっている(e〜g)。腹片は長舌形で長さ0.3〜0.7mm、腹縁の基部は茎に下垂し、キールは弓形に曲がっている(d〜f)。腹葉は茎幅と同じかやや幅広で、長さ0.5〜0.8mm、ほぼ全縁で、茎に下垂し、上半は軽く反り返る(c, d, h)。腹葉には、先端が二裂したものや、切頭状になったものもみられる。背片、腹片、腹葉のいずれの葉身細胞も、類円形〜丸みを帯びた多角形で、長さ15〜25μm、トリゴンは比較的大きく、円形〜楕円形の小さな油体を多数含んでいる(i)。
 茎の先の方に、雌苞葉に包まれた短い枝がみられる(j)。雌苞葉の縁には毛状の歯が多数ついている。こられの葉をどけてみると、造卵器と思われる組織が12〜14こほど出てきた(l)。どの部分が花被なのか分からず、結局花被の確認はできなかった。

 クラマゴケモドキ科であることは間違いなさそうだ。属への検索表をたどると、クラマゴケモドキ属 Porella に落ちる。次に、種への検索をたどると、ヒメクラマゴケモドキ P. caespitans var. cordifolia に落ちた。平凡社の図鑑で当該種の説明を読むと、おおむね観察結果と合致するが、腹葉の形に疑問が残った。図鑑には、腹葉の先は切頭で歯があると記すが、本標本では、そういった腹葉は見あたらない。以前観察してヒメクラマゴケモドキと同定した標本では、腹葉の先には左右に歯があった(標本No.291)。疑問は残るが、とりあえずヒメクラマゴケモドキとして扱っておこう。