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[標本番号:No.345   採集日:2007/10/11   採集地:愛媛県、東温市]
[和名:ヒメシノブゴケ   学名:Thuidium cymbifolium]
 
2007年11月2日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 愛媛県できのこ仲間と一緒に滑川渓谷を歩いたときに、きのこ観察の合間にシノブゴケ属の蘚類を採集した。渓流の流水で濡れる岩盤にへばりつくように広いマットを作っていた(a)。ルーペでみると、茎に多数の毛葉がみえ、茎葉の先端は白っぽい糸のようにみえた(c)。
 植物体は硬い茎を持ち、長さ8〜15cm、数回羽状に分枝し、同一平面上に広がる(a, b)。20倍のルーペでみても、葉のパピラの様子は全くわからない(c)。茎にはまばらに茎葉がつき、茎の表面は一面に多数の毛葉に覆われる(d)。枝葉は茎葉と比較して極端に小さい(e)。
 茎葉は、長さ1.2〜1.5mm、基部は深い縦皺をもった三角形で、途中から急に細くなって芒状に延び、先端は透明な細胞が一列に繋がる(e, f)。葉縁は全縁で、中肋が先端に達し、中肋背面には牙状の突起があり、葉の基部には多数の毛葉がつく。茎葉の葉身細胞は、葉身中央部では多角形で、長さ10〜15μm、一つの牙状突起をもち、基部では長い楕円形で、長さ20〜30μm、茎につく周辺の細胞表面は平滑である(g)。
 枝葉は茎に近い部分と、枝先端とでは、大きさに数倍の差がある(c, e)。枝葉は、枝の上部で長さ0.25〜0.35mmで、卵状の三角形、先端は芒状ではなく、中肋は葉頂に届かず、葉上半の縁には微歯があり、背面には牙状の突起がある。枝葉の葉身細胞は、多角形で、長さ8〜12μm、一つの牙状突起をもつ(i)。
 茎の横断面をみると、中心束の有無は不明瞭で、表皮は厚膜の小さな細胞から構成され、多数の毛葉が出ている(j, k)。毛葉は糸状〜披針形で、細胞壁の表面に突起があり、毛葉の先端は尖らない(l)。

 肉眼的特徴からは、トヤマシノブゴケあるいはヒメシノブゴケのように思われた。ルーペでみたときには、いずれなのか判断できなかったが、実体顕微鏡で葉の表面をみたとき、細胞表面の突起が一つしかないことがわかり、ヒメシノブゴケ Thuidium cymbifolium と判断した。
 ヒメシノブゴケについては、これまで何度も観察している(標本No.293No.158No.89)。当初は、ホンシノブゴケと同定ミスを犯していたが、最近では比較的楽に見分けることができるようになってきた。肉眼だけでは判定の難しいトヤマシノブゴケ T. kanedae だが、葉身細胞の突起をみれば、差異は歴然としている。いずれも、大形で、茎葉の先端が透明な芒となる。同定だけを目的とすれば、上記のような観察は不要だろう。ホンシノブゴケには未だに出会えていない。