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[標本番号:No.493   採集日:2008/07/20   採集地:群馬県、片品村]
[和名:フウリンゴケ   学名:Bartramiopsis lescurii]
 
2008年8月5日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 栃木県と群馬県の県境をなす金精山北側の針葉樹林、標高2100m付近の腐植土に柔らかい感じのスギゴケ科の蘚類が群落を作っていた(a, b)。フウリンゴケだろうと思ったが、自信がもてないので詳細に観察してみることにした。
 茎は長さ5〜8cm、ほとんど分枝せず、赤褐色の下半部にはほとんど葉をつけず、上半部にだけやや疎らに葉をつけ、乾燥すると葉が巻縮する(c〜e)。葉は、披針形で、長さ4〜7mm、葉縁にはやや大きめの歯があり、鞘部の上縁には、多細胞からなる長い毛がある(f〜i)。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 葉の腹面側、中肋上には、波打ったような形の薄板が、6〜7列に並ぶ(j)。葉身細胞は、葉の大部分では丸味を帯びた方形で、長さ6〜10μm(k, l)。鞘部には薄膜で、やや大形の矩形の細胞が並ぶ(m)。葉縁付近では、楽に葉身細胞を確認できるが、縁から中肋寄りに内側に向かうと、暗くて輪郭部がはっきり捉えにくい。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 葉の横断面を切り出してみると、葉の縁だけが明るい理由がはっきりした。葉身細胞は鞘部以外では、2細胞の厚みがあり、葉縁で1細胞となっている(n)。葉の各部の横断面を切って、中肋、薄板、葉身細胞の様子を確認してみた(o, p)。薄板の高さは、2〜8細胞とバラツキが大きい。鞘部の中肋上には薄板はない。薄板をバラして、側面からみると、上部が歯をもち波打っている(q)。これをみると、薄板の高さにバラツキが大きいことが納得できる。茎の横断面をみると、全体が丸味を帯びた三角形をなし、中心束があり、やや厚膜の小さな表皮細胞がみられる(r)。

 亜高山帯の針葉樹林に群生し、葉の鞘部上縁に長い白毛があることや、波打った薄板が、中肋上にだけあることなどから、フウリンゴケ Bartramiopsis lescurii に間違いなさそうだ。今回採取した標本では朔をつけた個体はなかったが、昨年8月に長野県の北八ヶ岳で採取したフウリンゴケ(標本No.328)には朔をつけたものがあり、そのときに胞子体を観察している。