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[標本番号:No.491   採集日:2008/08/02   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ハリスギゴケ   学名:Polytrichum piliferum]
 
2008年9月6日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 8月2日奥日光の温泉ヶ岳稜線の標高2000mあたりで、岩壁一面にハリスギゴケ Polytrichum piliferum がマット状に群生していた(a, b)。亜高山帯の陽当たりのよい岩上につき、葉先が透明な芒となっているスギゴケ類はほかにないので、一目で同定できる分かり易い種だ。昨年9月にも群馬県嬬恋村で採取した標本(No.335)を観察しているが、あらためて初心に返って観察した。
 微気象のいたずらなのか、やや湿り気味で緑色の若い群(a)と、乾燥気味の赤褐色の群(b)とが斑状になっていた。持ち帰った標本は、乾燥して葉が茎に密着していたが、湿っても大きく開くことはなかった(c, d)。茎はほとんど分枝せず、高さ2〜3cm、上部に葉を密集させる。
 葉は卵形の鞘部から披針形に伸び、芒の部分を除いた長さは2.5〜4mm、葉縁は全縁にみえる(d, e)。透明な芒には微細な歯があり、長さ1〜2mm(f)。若い葉の鞘部は透明な淡緑色だが、茎の下部に付く葉や古い葉では鞘部は褐色を帯びる。鞘部の葉身細胞は、肩の縁では丸味を帯びた小さな多角形、多くの部分では矩形、基部ではさらに大きな矩形となっている(g, h)。
 葉の横断面を複数ヵ所で切り出してみた(i)。芒の部分は三角形をなし、葉身部では葉縁が両側から薄板を広く被っている。薄板は5〜7細胞の高さで、頂端細胞は横断面でフラスコ形(j)。薄板を横からみると、上面には厚壁の細胞が凸凹に連なる(k)。茎の横断面にはよく分化した中心束がある(l)。鞘の最下部に薄板はないが、すぐ上側には高さ1〜2細胞の薄板がある(i, l)。

 現地で朔をつけた個体を探してみたが、結局見つからなかった。ハリスギゴケをていねいに観察したのは今回が2度目となる。これまでは、スギゴケ類の薄板をバラして横面を観察する場合、多くはKOHで封入して押し潰す方法をとっていた(cf;「たわごと」→「組織バラしの応用」)。今回の観察にあたっては、薄板を剥がす作業を、実体鏡の倍率を上げて、先の細いピンセットを2本使って行った。半信半疑でやってみると、比較的楽に薄板を引きはがすことができた。