Top  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.571   採集日:2008/12/20   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:カサゴケモドキ   学名:Rhodobryum ontariense]
 
2008年12月23日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先週末石灰岩生の菌類の調査で奥多摩〜奥秩父にかけての林道を探索した。目的の菌類は見つからないので、途中からコケの観察に切り替えることにした。そして、奥多摩(東京都)と丹波山村(山梨県)の石灰岩地で何種類かの蘚類を採集した。
 奥多摩の石灰岩地に開かれた遊歩道脇(a)にカサゴケ属 Rhodobryum の蘚類がきれいな姿をみせてくれた(b, c)。みたところカサゴケモドキ R. ontariense のようだが、あらためて初心に帰って調べてみた。地下の匍匐茎から延びる直立茎は、長さ1〜2cm、茎の頂付近にパラソル状に大型の葉をつける(d)。一本の地下茎から、3〜5本の直立茎が出ている。乾燥すると、葉がしおれて波打ち、傘がオチョコになったときのような姿となる。
 直立茎は茶褐色の仮根に密に覆われる。茎頂に密集してつく葉は、下側と上の頂部側では小さく、その中間のものが最も大きい。一本の直立茎につく葉は、25〜50枚ほどあり、湿った状態では、ちょうどボタンの花を思わせるように、水平に展開する(e)。
 葉は倒卵形〜長楕円形で、長さ8〜12mm、葉縁は頂部付近以外では強く反曲する。葉先付近の縁には単生の歯があり、頂部は突出する。強い中肋が葉頂にまで達する(f, g, i)。葉身細胞は長さ60〜90μm、葉の上中部では扁平な六角形(j)、葉基部では矩形に近い六角形(k)。葉の横断面を切り出してみると、葉縁の強い反曲の様子がよく分かる(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 横断面で中肋にはステライドが中心柱のように集中し、ガイドセルはない(m)。葉先近くでは中肋は急激に細くなる(n)。葉縁の反曲部は渦のような姿をみせる(o)。直立茎の横断面には、隋を構成する中心柱があり、木質部の外側を小さな細胞からなる表皮が取り囲む(p)。
 湿って広く展開する葉群の中央部分には、ゴミがたまったような構造が見られる(c, q)。造精器か造卵器と側糸だろうと検討をつけて、一部をつまみ出して顕微鏡で覗いてみた。採集個体についていたものは、すべて造精器のようだ(r)。

 植物体の形から、ハリガネゴケ科 Bryaceae のツクシハリガネゴケ属 Rusolabryum ないしカサゴケ属 Rhodobryum に間違いない。葉腋に無性芽はなく、葉縁に明瞭な舷はないから、ツクシハリガネゴケ属の種ではない。平凡社図鑑でカサゴケ属の検索表をみると、配偶体は中型で、茎頂部の葉は25〜50枚ほどあり、葉縁は強く反曲していることから、カサゴケモドキ R. ontariense となる。種の解説をよむと、葉身細胞の長さ以外の形質状態はほぼ観察結果と一致する。
 昨年6月に標本No.246を観察したときにも、カサゴケとすべきかカサゴケモドキとすべきか迷ったが、ここでも同じ問題が起こる。カサゴケモドキの葉身細胞の長さを、平凡社図鑑と保育社図鑑ではいずれも「30〜60μm」と記している。この数値は何かの間違いではないかと思う。この部分を疑ってかかれば、他の形質状態はカサゴケモドキを示唆している。