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[標本番号:No.631   採集日:2009/04/27   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ヒメミズゴケ   学名:Sphagnum fimbriatum]
 
2009年4月28日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 雪の中の植物体、(c, d) 採集標本:乾燥時と湿時、(e) 乾燥時の茎と枝、(f) 開出枝と下垂枝、(g) 茎と茎葉、(h) 茎の表皮細胞、(i) 茎の横断面、(j) 枝の表皮細胞と横断面、(k) 茎葉と開出枝の葉、(l) 茎葉

 日光市は吸収合併を繰り返して、今では栃木県で最大の面積を誇る市となった。昨日、日光市北部の山中の湿地で、雪の中から顔を出しているミズゴケを採集した。淡緑色〜淡黄緑色で、柔らかい感じで、緩やかな丸みを帯びた大きな群落をなしていた(alt 1,500m)。
 茎は長さ15〜25cm、枝を比較的疎につけ、乾燥しても葉が縮れるようなことはない(c〜e)。下垂枝は開出枝よりやや長い(f)。茎の表皮細胞には螺旋状肥厚はなく、表皮表面には0〜2個の孔がある(h)。茎の横断面で、表皮細胞は木質部と明瞭に分化し、2〜3層をなす(i)。枝の表皮細胞にみられるレトルト細胞は、2列ないし3列をなし、首は短い(j)。
 茎葉は長さ1.0〜1.2mm、舌形で葉の上半部の透明細胞には膜壁がなく、やや扇形に開き、総状に裂けている。茎葉下半部には広い舷があり葉幅の2/3ほどを占めるが、中央から上では舷は非常に狭いかほとんどない(l〜n)。茎葉を横断面で切り出してみると、葉上部では透明細胞の輪郭が曖昧となり、葉下部では葉緑細胞が四角い面をみせる(q, r)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
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(p)
(p)
(q)
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(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉の先端部、(n) 茎葉の下半部、(o) 茎葉上部の葉身細胞、(p) 茎葉中央部の葉身細胞、(q) 茎葉中央部の横断面、(r) 茎葉上部の横断面、(s) 開出枝の葉、(t) 開出枝の葉背面上部、(u) 開出枝の葉背面中央部、(v) 開出枝の葉腹面上部、(w) 開出枝の葉腹面中央部、(x) 開出枝の葉の横断面

 枝葉は長さ1.5〜1.8mm、卵状披針形で深く凹み、先端は軽く反り返り、葉先は僧帽状(k, s)。枝葉背面の透明細胞には、縁に沿って貫通する大きな孔があり、腹面の透明細胞には背面よりも大きな孔が並ぶ(t〜w)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は背腹両面に開き、台形で腹面により広く開いている(x)。

 枝や茎の表皮細胞に螺旋状肥厚がないから、ミズゴケ節 Sect. Sphagnum ではない。枝葉の先端は狭く、横断面で葉緑細胞は背腹両面に開いているので、キレハミズゴケ節 Sect. Insulosa でなく、キダチミズゴケ節 Sect. Rigida でもない。さらに、枝葉透明細胞の背側に小さな孔が多数並ぶことはないからユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda でもなく、茎葉の舷が下半部で大きくひろがっているから、ウロコミズゴケ節 Sect. Squarrosa でもない。また、枝葉の横断面で葉緑細胞の底辺が腹側にあるからハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata でもない。残るのはスギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia だけとなる。平凡社図鑑でスギバミズゴケ節から種への検索表をたどると、すんなりとヒメミズゴケ S. fimbriatum に落ちる。種の解説を読むと観察結果とほぼ一致する。

 今日は久しぶりに、茎葉の横断面を数ヶ所で切り出してみた。葉の上半部では透明細胞の膜壁がないことは普通に見ても分かるが、横断面をみるとさらに明瞭にわかる。ヒメミズゴケを詳細に観察したのはこれが三度目となる(標本No.283同No.188)。採取地はすべて栃木県日光市となっているが、これらの三者はすべて全く別の地域であり、このうち2ヵ所は平成の大合併の前には、いずれも日光市ではなかった場所だ。