HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.643   採集日:2009/05/04   採集地:福島県、塙町]
[和名:ツボミゴケ属   学名:Jungermannia sp.]
 
2009年5月19日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 湿った崖についた苔類、(b) 植物体、(c) 背面、(d) 腹面、(e, f) 葉、(g, h, i) 葉身細胞、(j) 葉:実体鏡下、(k) 葉の横断面、(l) 葉の基部の横断面

 福島県塙町の山の中(alt 600m)で、川沿いの湿った崖に何種類かの苔類が混成していた(a)。一塊の群れを採集したところ、大きく2種類に分けられた。ひとつはチャボヒシャクゴケ(標本No.641)だった。今日はもうひとつ、腹片も腹葉もなく瓦状に葉をつける苔類を観察した(b)。
 茎葉斜上し、長さ1〜1.5cm、わずかに分枝し、茎の腹面には多数の仮根をつける。若い茎の葉(c, d)ではやや疎であるが、多くは密に重なり合い、茎に斜めにつき、広く開出する(b〜d)。葉は卵形〜類円形で、円頭で全縁、長さ1.2〜2mm、背側の下側縁はやや内曲する(e, f)。葉身細胞は、長さ25〜50μm、楕円形〜丸みを帯びた多角形で、トリゴンは大きく、薄膜で表面は平滑。油体は円形〜楕円形で、表面は顆粒状、一細胞あたり4〜6個ある。
 葉の中央やや上と葉の基部付近で横断面を切り出してみた(j)。葉身細胞は大部分が1層だが(k)、葉の基部では中央付近で2〜3層となっている(l)。なお、花被やペリギニウムをつけた個体は見つからなかった。

 花被や苞葉がないので決定的なことはいえないが、葉を瓦状につけ、葉は卵形〜類円形で全縁、複葉はないことなどから、ツボミゴケ属 Jungermannia の苔類だろう。平凡社、保育社の両図鑑とも花被の状態が分からないと検索表を素直にたどることはできない。しかし、トリゴンや葉身細胞の様子などから、可能性を探っていくとオオホウキゴケ Jungermannia infusca の可能性が高いと思う。過去の標本 No.333 オオホウキゴケと比較しても、その可能性は高いと思われる。また、茎の横断面を見るために葉をつけたままの茎から横断面を切り出したところ、複数層の葉身細胞が見られたので、あらためて別の葉を何枚か切り出してみた。やはり、どの葉をみても、基部の中央付近で2〜3層となっていた。葉の基部中央付近を顕微鏡でみると何となく暗いが、その理由が分かったような気がした。