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[標本番号:No.633   採集日:2009/05/03   採集地:栃木県、宇都宮市]
[和名:アラエノヒツジゴケ   学名:Brachythecium reflexum]
 
2009年5月21日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a, b) 岸壁についた植物体、(c, e) 乾燥時、(d, f) 湿時、(g, h, i) 茎葉、(j) 茎葉の葉身細胞:中央部、(k) 同左:葉の基部、(l) 同左:葉の先端部、(m, n) 枝葉、(o) 枝葉の葉身細胞:中央部、(p) 同左:葉の基部、(q) 同左:葉の先端部、(r) 枝葉の横断面

 今月初めゴールデンウイークに宇都宮市の公園(alt 180m)で、脆い岸壁についていた蘚類を採集した(a, b)。乾燥すると葉が茎に密着し、湿ると葉を展開させる。茎ははい、短い枝を出し、枝は不規則に分枝する(c〜f)。
 茎葉は広卵形〜三角形で基部のやや上がもっとも幅広く、長さ0.7〜1.2mm、急に細くなって葉先は長く尖る。葉には縦しわはほとんど無く、葉先付近には微細な歯があり、透明尖をもつ葉もある。葉先が反り返ることはない。中肋は強く葉頂に達する(g〜i)。茎葉の葉身細胞は長い六角形〜楕円形で、葉の中央部では長さ30〜55μm、幅6〜8μm、薄膜で平滑。翼部では膨らみをもった方形の細胞が中肋付近にまで達し、茎に下延する様子はない(j〜l)。
 枝葉は卵形で、長さ0.5〜1.2mm、葉先は急に細くなって尖り、上半部の縁には微細な鋸歯がある。中肋は葉頂に達し、葉身細胞の形や大きさ、翼部に於ける状態は、茎葉のそれとほぼ同様(m〜q)。枝葉の横断面で中肋にはステライドやガイドセルはない(r)。茎の横断面にはよわい中心束があり、表皮には小さな細胞がみられる(s)
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(s) 茎の横断面、(t) 胞子体、(u) 朔、(v) 朔柄の上部、(w) 朔歯、(x) 朔歯の開閉、(y) 気孔、(z) 外朔歯と内朔歯、(aa) 外朔歯基部、(ab) 外朔歯上半、(ac) 内朔歯基部、(ad) 内朔歯上半

 朔柄は赤褐色で、長さ10〜12mm、卵形の朔をつける(t)。朔柄の上部には微細な乳頭がみられるが、朔柄の下部では不明瞭(v)。朔はやや傾いてつき、非相称で、短く尖った蓋をもち、朔歯は二重でそれぞれ16枚、内朔歯と外朔歯の長さはほぼ同様(u〜x)。朔の基部付近には気孔がある(y)。帽をつけた胞子体は残っていなかった。
 内朔歯と外朔歯とを分離してみた(z)。外朔歯の基部には密に横条があり、上部表面は微細な乳頭におおわれる(aa, ab)。内朔歯の基礎膜は高く、間毛と歯突起がよく発達している。間毛と歯突起の表面も微細な乳頭におおわれる(ac, ad)。なお、朔や朔柄の横断面、胞子の件、苞葉などについては画像も記述も省略した。

 アオギヌゴケ科 Brachytheciaceae の蘚類だと思う。平凡社図鑑の検索表をたどるとアオギヌゴケ属 Brachythecium に落ちる。種への検索表をたどると、アオギヌゴケ B. populeum とアラエノヒツジゴケ B. reflexum の二つが候補に残る。アオギヌゴケは変異に富むということで、その可能性も否定できないが、朔の形が短い卵形であるとされる。また、茎葉の形も本標本とは異なるようだ。
 観察結果は平凡社図鑑のアラエノヒツジゴケの記述とほぼ符合する。先にアラエノヒツジゴケとした標本No.516と比較すると、朔柄表面の乳頭の様子がやや異なるが、それ以外の形質状態はよく似ている。