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[標本番号:No.660   採集日:2009/06/27   採集地:山梨県、鳴沢村]
[和名:スギバゴケ   学名:Lepidozia vitrea]
 
2009年6月30日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a〜c) 植物体、(d) 朔をつける、(e) 背面、(f) 腹面、(g) 葉と腹葉、(h) 葉の葉身細胞、(i) 腹葉の葉身細胞、(j) 葉の横断面、(k) 茎の横断面、(l) 胞子体をつけた標本

 富士山山梨県側の標高1,600mあたりの針葉樹林で、ウラジロモミの樹幹基部にイワダレゴケと混在するような形でスギバゴケ属 Lepidozia の苔類が厚いマットを作っていた。現地は亜高山帯で周辺にはイワダレゴケやタチハイゴケが一面に群生する。現地でルーペで見たところハイスギバゴケ L. reptans のように感じたので、標本として持ち帰った。
 茎は、長さ0.8〜2.0cm、茎径0.2〜0.4mm、不規則羽状に分枝し、一部の枝先は鞭状に長く伸びる。葉は接在ないし離在し、葉長の1/2あたりまで三〜四裂し、軽く内曲し、長さ0.3〜0.5mm、幅0.3〜0.5mmで茎幅とほぼ同じ。葉掌部は5〜8細胞高、やや厚壁で、葉裂片基部は3〜4細胞幅。葉身細胞は丸みを帯びた多角形で、トリゴンはなく、各細胞には油体が。微粒の集合状の油体が3〜8個ある。油体は楕円形〜卵形で微粒の集合状。腹葉は茎葉と比較してやや小降りで、葉幅に対して葉長が短い。葉身細胞や油体などは、茎葉と変わらない。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(m, n) 花被に包まれた胞子体、(o) 花被、カリプトラ、胞子体 、(p) 苞葉に包まれたカリプトラと花被、(q) 苞葉、(r) 弾糸と胞子

 標本の一部に胞子体をつけた個体があった(d)。成長段階の異なる胞子体を伴った花被を並べてみた(m)。十分成熟していると思われた胞子体をバラしてみた(n)。花被は口の狭い円筒形で、カリプトラはワイングラス状(o, p)。苞葉は透明で、葉先は毛状となり、上半部の葉身細胞には葉緑体がほとんどない(q)。朔柄は十分成熟していないせいか短く、朔は楕円形。朔の袋を破ると、胞子と弾糸が飛び出してきた。胞子は、表面が微粒状の球形で、径12〜16μm。

 当初の予測ではハイスギバゴケだった。しかし、ハイスギバゴケなら油体は均質であるという。本標本の油体は微粒の集合で、楕円形のものが多い。あらためて、平凡社図鑑の検索表をたどり直すと、スギバゴケ L. vitrea に落ちる。しかし、今月18日に観察したスギバゴケ(標本No.657)と比較すると、一つ一つの葉を構成する細胞の数がかなり多い。