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[標本番号:No.734   採集日:2009/10/10   採集地:秋田県、鹿角市]
[和名:オリーブツボミゴケ   学名:Nardia subclavata]
 
2009年10月24日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 採取標本、(c, d) 茎の一部:背面、(e, f) 同前:腹面、(g) 腹葉、(h) 葉と腹葉、(i) 葉の葉身細胞、(j) 油体、(k) 強酸と強アルカリで処理した葉身細胞:サフラニン染色、(l) 葉の横断面

 久々に苔類を観察することになった。先に秋田県鹿角市にあるふけの湯温泉に寄った(alt 1120m)。その折に遊歩道脇の土の斜面を被っていた苔類を採集した(a)。植物体は上部が赤みを帯びる。茎は長さ6〜15mm、葉を含めた幅は1〜2mm、枝分かれは少なく、斜上する。仮根は少なく、腹葉の基部から出て透明。
 葉は瓦状に重なり、卵形〜円形で全縁、円頭、接在し、茎に斜めにつき、背縁は茎に流下する。葉身細胞は多角形で、長さ25〜35μm、膜は薄く、トリゴンは大きい(i)。表面は平滑で、部分的に2細胞層となる(l, m)。油体は全細胞にあり、1細胞に1個、円形〜楕円形、10〜20μm、内部に密に微粒があり、眼点をもつものがある(i, j)。
 腹葉は、茎幅と同じかやや広く、舌形〜三角形で、全縁、円頭。腹葉の葉身細胞は葉のそれと同じ。茎の下部では、腹葉の基部から仮根がわずかにでる。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉の横断面:部分的に2細胞層がある、(n, o) 花被、(p) 花被と苞葉、腹苞葉、(q) 苞葉と腹苞葉、(r) 苞葉、(s) 腹苞葉、(t) 苞葉の葉身細胞、(u) 花被部の横断面、(v) 上部苞葉の横断面、(w) 花被内部の横断面、(x) 茎の横断面

 花被の部分では苞葉や腹苞葉が多肉化しペリギニュームを構成している(u, v)。苞葉と腹苞葉は、3〜4組あり、ともに葉や腹葉より大きく、円形〜半円形で、全縁、円頭。葉縁がやや波うつ。葉身細胞やトリゴン、油体は、葉のそれとほぼ同様。花被は大きく円錐形で、深く3〜4褶、先がわずかにせばまる。なお、茎の横断面で組織にはほとんど分化がない(x)。

 ツボミゴケ科 Jungermanniaceae の苔類だと思う。切れ込みのない腹葉があり、花被をもつことからアカウロコゴケ属 Nardia となる。保育社図鑑の検索表をたどっていくと、オリーブツボミゴケ N. subclavata に落ちる。図鑑の解説は、アカウロコゴケ N. assamica を引用してかなり省略されている。図鑑に記述された内容は観察結果とほぼ一致する。
 なお、標本No.407 N. subclavata では、仮根が淡紅褐色で、腹葉の基部から密集していたが、本標本では、ほぼ無色透明な仮根が疎に出ている。また、和名を「オリイブツボミゴケ」と表記している。今回、ここでは「イ」を使わず、一般的に流布している音引き「ー」を使うことにした。これにあわせて、No.407のタイトルの部分をオリーブツボミゴケと修正した。
[注] INDEXでは諸般の事情からあえて「オリイブツボミゴケ」としてある!