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[標本番号:No.822   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:チャボヒシャクゴケ   学名:Scapania stephanii]
 
2009年12月25日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
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(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 背面、(c) 腹面、(d, e) 背面拡大、(f, g, h) 葉、(i) 背片と腹片を開いた状態、(j, k) 葉身細胞、(l) 葉の横断面

 前日光林道の途中の沢で水流に濡れた石に赤色を帯びた苔類がついていた。枝はやや斜上し、枝分かれは比較的少なく、茎の長さは1.2〜2.0cm、葉を含めた幅は1〜2mm、葉は接在し広く開出する。透明な仮根が腹面に散生する。
 葉を不等に二裂して折りたたまれ、背片は腹片より小さく、キールは明瞭で、背片は瓦状となっている。腹片は楕円形〜卵形で、長さ0.6〜1.2mm、腹縁基部は下延せず、葉先は円頭〜やや鋭頭、葉縁には小さな鋸歯がある。鋸歯は三角形で、1〜数細胞からなる。背片は腹片の2/3〜3/4の長さで、卵形〜矩形で、葉縁には鋸歯がある。葉身細胞は丸みを帯びた小さな多角形で、長さ12〜18μm、細胞壁はやや厚く、トリゴンは小さい。葉身細胞の表皮はほぼ平滑だが、一部の葉身細胞では微細な乳頭も見られる。茎の横断面で表皮細胞は髄部から明瞭に分化し、小形厚膜となっている。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(m) 茎の横断面、(n, o) 花被、(p) 花被基部近くの断面、(q) 花被部の横断面、(r) 花被外皮の横断面

 採取標本には多くの花被がついていた。花被は茎に頂生し、表裏から押しつぶされたように扁平で、先端部には微細な鋸歯がある。花被の表皮細胞には微細な乳頭がある。

 ヒシャクゴケ科 Scapaniaceae ヒシャクゴケ属 Scapania の苔類だろう。平凡社図鑑の検索表をたどるとチャボヒシャクゴケ S. stephanii に落ちる。検索表では「葉のキールに明瞭な翼がある」かどうかで分かれるが、「葉のキールにある翼」がどこをどの部分を指しているのか未だわからない(cf:標本No.641)。今年の9月以降、進歩がないということか。

[修正と補足:2009.12.25]
 識者の方から、「キール(折れ目の稜)に沿って上下片がくっついてできる(癒合)部分」が「翼」であり「折れ目付近では2枚が完全に1枚になって(癒着)張り出している」感じであるとご教示いただいた。思えば今年の5月にも「翼」の件で適切なコメントをいただいていたが、すっかり忘れていた。そこで認識を新たにするため、改めて葉のキール部と翼部、そしてその近辺の横断面の画像をアップして再確認した(同じ内容の文面を標本No.641にも加えた)。
 再度にわたるていねいなご教示ありがとうございました。
 

 
 
(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
(x)
(s, t) 翼部:淡紫色で囲った部分、(u) 切断面、(v, w, x) 翼部付近の横断面