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[標本番号:No.825   採集日:2009/12/13   採集地:栃木県、鹿沼市]
[和名:ツツクチヒゲゴケ   学名:Oxystegus tenuirostris]
 
2009年12月28日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(a) 植物体、(b) 乾燥状態、(c, e) 標本:乾燥時、(d, f) 標本:湿時、(g) 葉、(h) 葉の上半、(i) 葉の下半、(j) 葉中央部の葉身細胞、(k) 葉頂部、(l) 葉翼部、(m) 葉の横断面:上部、(n) 同前:中央部、(o) 同前:下部、(p) 茎の横断面、(q) 朔をつけた個体、(r) 葉のKOH反応

 前日光林道を鹿沼から足尾方面に向かう途中で(alt 840m)、日陰の岩隙にセンボンゴケ科 Pottiaceae と思われる蘚類が群生していた。霜解けのお湿りのため葉は展開していたがやけに緑褐色味が強かった(a)。乾燥すると強く巻縮して管状となった(b)。
 茎は直立し高さ12〜18mm、上部の葉は緑色だが下部の葉は褐色で(c, d)、横断面に中心束はなく、表皮細胞は薄膜大型で崩れている(p)。葉は線状披針形で、長さ2.5〜4.0mm、鋭頭で全縁(g, h, i)。中肋は強く葉頂に達し、ときに突出する(h, k)。
 葉身細胞は方形〜多角形で、長さ6〜10μm、膜はやや厚く、表面は金平糖状に6〜8個の乳頭に覆われる(j, m, n)。葉の中央部から基部に向かって葉身細胞はやや大きくなり、基部では透明で大型矩形薄膜の細胞となる(i, l, o)。
 葉の横断面で中肋にはステライドとガイドセルがある(n)。葉頂付近と基部の中肋横断面にはガイドセルはあるもののステライドははっきりしない(m, o)。葉のKOH反応は黄色(r)。

 現地で朔をつけた個体を探したが、すっかりしなびて崩れかけたものが一つだけしかみつからなかった(a, e, q)。蓋を取り外してみたが朔歯の様子は不明、朔壁の気孔も不明、雌苞葉も崩れてはっきりしなかった。要するにほとんどミイラ化していた。
 保育社図鑑の検索表をいくらたどっても手がかりは得られなかった。平凡社図鑑の検索表からはツツクチヒゲゴケ属 Oxystegus に落ちる。属の解説をみると「日本産1種」とあってツツクチヒゲゴケ O. cylindricus だけが掲載されている。種の解説を読むと観察結果とほぼ符合する。なお、保育社図鑑にはこの種の解説は掲載されていない。
 念のため、昨年末にツツクチヒゲゴケと同定した標本No.545と比較してみたところ、葉や茎の形、葉身細胞の様子、各々横断面の様子などはほぼ同一と考えられる。