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[標本番号:No.0871   採集日:2010/04/11   採集地:神奈川県、清川村]
[和名:コモチイトゴケ   学名:Pylaisiadelpha tenuirostris]
 
2010年5月5日(水)
 
(a)
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(b)
(b)
(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 茎葉と枝葉、(g) 茎葉、(h) 茎葉の葉身細胞、(i) 茎葉の翼部、(j) 茎葉の先端、(k) 枝葉、(l) 枝葉の葉身細胞、(m) 枝葉の基部、(n) 枝葉の先端、(o) 枝葉の横断面、(p) 枝の横断面、(q) 朔基部と苞葉、(r) 苞葉

 4月11日に神奈川県の東丹沢で採取したコケ標本がまだいくつか未観察のまま残っている。そのうちの一つ、標高550mの沢スジで切り株の上に赤褐色の朔を多数つけて薄いマットを作っていた蘚類を観察してみた。
 茎は匍い、不規則羽状に枝をだし、黄緑色で光沢がある。葉を含めた枝の幅は0.6〜1.2mm、長さは2〜5mm。茎葉と枝葉はほぼ同じ形で、長卵形〜卵形で先は漸尖して細く伸び、鋭頭となる。茎葉は長さ0.7〜1.2mm、細くなった上半部の縁に微細な歯がある。枝葉は長さ0.6〜0.9mm、葉上半部縁の歯は茎葉のそれより顕著。茎葉、枝葉ともに中肋はない。葉の葉身細胞は線形で、長さ45〜80μm、幅5〜8μm、薄膜で平滑。葉の翼部は明瞭な区画をなし、薄膜で方形の細胞が並ぶ。茎や枝の横断面に中肋はなく、表皮細胞は薄膜で大きな細胞からなる。苞葉は長卵形から漸尖して、長さ0.8〜1.5mm、葉身細胞は線形で長さ50〜100μm。
 
 
 
(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(y)
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(z)
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(aa)
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(ab)
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(ac)
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(ad)
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(ae)
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(af)
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(ag)
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(ah)
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(ai)
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(aj)
(s) 苞葉、(t) 苞葉の葉身細胞、(u) 苞葉の基部、(v) 胞子体、(w) 朔、(x, y) 朔歯の開閉、(z) 外側からみた朔歯、(aa) 外朔歯、(ab) 外朔歯下部、(ac) 外朔歯上部、(ad) 内側からみた朔歯、(ae) 内朔歯、(af) 内朔歯下部、(ag) 内朔歯上部、(ah, ai) 朔基部の気孔、(aj) 胞子

 朔柄は赤褐色で、長さ10〜18mm、表面は平滑。朔は直立からやや傾くが、ほぼ相称。口環はなく、朔歯は二重で、外朔歯の上部は乳頭に覆われ、下部は横条が目立ち、内朔歯の歯突起は披針形で、間毛はほとんど痕跡的かみあたらない。朔の基部には気孔がある。胞子は類球形で、径18〜25μm。

 朔の蓋や帽をつけた個体は見あたらず、形などは不明。また、茎や枝に毛葉はなく、無性芽らしきものは見あたらない。とりあえず、ナガハシゴケ属としたが、どの科の蘚類なのかわからなかった。葉先が漸尖し、葉身細胞が線形で平滑、中肋はなく葉上部の縁に微歯があり、茎の横断面に中心束がなく、茎の表皮細胞は薄膜で大形。また、口環がなく、朔柄は長く、朔は相称、内朔歯は披針形、等々の形質状態から、候補はかなり絞られるはずだと思った。
 口環がなく、内朔歯がよく発達していることから、ツヤゴケ科 Entodontaceae は排除した。中肋がなく朔が相称であり、翼部がよく発達していることから、サナダゴケ科 Plagiotheciaceae も排除した。残るのはナガハシゴケ科 Sematophyllaceae とハイゴケ科 Hypnaceae となる。
 ハイゴケ科では候補として残るような属がみあたらなかった。ナガハシゴケ科では候補として残るのはナガハシゴケ属 Sematophyllum だけとなる。しかし、保育社図鑑、平凡社図鑑ともに、観察結果と符合するような種がみつからない。観察結果に対して、何か判断ミスをしているのか、思い違いをしているのかもしれない。とりあえずナガハシゴケ属とした。

[修正と補足:2010.05.06]
 同定結果をコモチイトゴケ Pylaisiadelpha tenuirostris に修正した。観察結果を検討しているとき、コモチイトゴケ P. tenuirostris (No.149)やケカガミゴケ P. yokohamae (No.114)によく似ているとは思いつつ、「無性芽がない」ことからこの属である可能性は極めて低い、と思い込んで別の属を探してしまった。No.114の [修正と補足:2007.04.25] のことはすっかり忘れていた。結果として該当する属が見あたらず、仮にナガハシゴケ属として取り扱ったものだった。和名にとらわれて思い込みが招いた判断ミスだといえる。
 ご指摘いただいた識者の方に感謝します。ありがとうございました。