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[標本番号:No.0914   採集日:2010/05/03   採集地:岡山県、高梁市]
[和名:クシノハゴケ   学名:Ctenidium capillifolium]
 
2010年6月7日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h) 茎葉、(i) 茎葉の葉身細胞、(j) 茎葉翼部、(k) 茎葉上部、(l) 茎葉先端

 5月3日に岡山県高梁市の渓谷で、道脇の陽当たりのよい岩に葉を密につけた黄緑色の柔らかい蘚類が群生していた(alt 350m)。モコモコという表現がぴったりの独特の触感だ。植物体は光沢のある厚いマットを作り、茎は不規則羽状に枝を出し葉を密につける。茎葉も枝葉も常にに開出したままで、乾湿であまり姿に変化はない。枝は葉を含め幅1.5〜2.5mm。
 茎葉は広卵形の基部をもち、急に針状に尖って、背側に反り返り、長さ1.8〜2.3mm、基部は狭く下延する。葉縁は全周にわたって微歯がある。極めて短い二本の中肋があり、中肋が不明な葉も多い。茎葉の葉身細胞は線形で、長さ30〜50μm、幅4〜6μm、やや厚膜で平滑。翼部はあまり明瞭な区画を作らず、方形〜菱形の細胞が見られる。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
(p)
(q)
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(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m, n) 枝葉、(o) 枝葉の葉身細胞、(p) 枝葉の翼部、(q) 枝葉先端、(r) 枝葉の横断面、(s) 茎の横断面、(t) 枝の横断面、(u) 茎と枝の一部、(v, w, x) 偽毛葉

 枝葉は、若く新しい枝では茎葉と似た姿となり、下部がやや狭い。大部分の枝葉は狭い卵型の基部から長く針状に漸尖し、長さ1.5〜2.1mm、葉先はあまり反り返らず、葉縁には全周にわたって微歯がある。枝葉の葉身細胞は茎葉のそれよりやや長めで細い。翼部も茎葉と比較してやや狭く、基部の下延も少なめ。
 茎や枝の横断面には中心束があり、表皮細胞は小さくて厚膜。偽毛葉は小葉状。

 現地でクシノハゴケ Ctenidium capillifolium だろうと思ったが、念のために持ち帰って調べてみた。間違いなさそうだ。これまでにも2度ほどクシノハゴケを観察しているが(No.894, No.851)、いずれも偽毛葉の画像がうまく表現されていない。そこで今日は、枝を含めて茎を縦断して撮影することを試みたが、やはりうまくできなかった(u〜x)。
 さらに、枝の基部に見られる偽毛葉を取り外そうと試みたが、これは失敗して偽毛葉を潰してしまった。作業には、先細ピンセットと極細の針を使う必要がある。一昨年電解法で作ったタングステン製の極細針がほとんど駄目になっていて、うまく取り外すことができなかった。何とか再び極細針を作らないと、内外朔歯の分解もできなくなる。