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[標本番号:No.0978   採集日:2010/07/25   採集地:秋田県、にかほ市]
[和名:タマキチリメンゴケ   学名:Hypnum dieckii]
 
2010年9月10日(金)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f, g, h) 茎葉、(i) 茎葉の葉身細胞、(j) 茎葉の翼部、(k) 茎葉の先端、(l) 茎葉の横断面

 ようやく7月25〜26日に秋田県で採取したコケ類を観察できるようになった。主ににかほ市象潟の目貫谷地周辺で採取したものだ(alt 300〜400m)。目貫谷地の周辺は静かだが、20〜30kmほど上流には天然記念物の獅子ヶ鼻湿原があり、観光客で終始賑わっている。
 小さな渓流の縁、落ち葉が堆積しミズゴケ類の群生する中に、やや硬い感じの蘚類が出ていた。茎ははい、不規則に短い枝を出す。枝の上半部のみが黄緑色で、他は褐色を帯びている。茎は、葉を丸くつけ、葉を含めた幅は1.5〜2.0mm。乾湿であまり姿に変化はない。
 茎葉は卵形の基部から漸尖して長く伸び、強く鎌形に曲がり、やや非相称。葉先が曲がっているので計測しにくいが、長さは1.5〜2.2mm。葉先の縁に目立たない微細な歯があり、翼部が明瞭に別区画をなしている。中肋は二本で短い。葉身細胞は線形で、長さ50〜80μm、幅4〜5μm、やや薄膜で平滑。葉の先端部でも葉身細胞の形はあまり変わらない。翼部褐色を帯び、大形薄膜の細胞が2層の厚みを持って並ぶ。枝葉は茎葉よりやや小形であり、葉身細胞や翼部の様子などは、茎葉とほとんど変わらない。茎や枝の表皮細胞は薄膜で大きい。偽毛葉は小葉状。
 
 
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
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(m) 茎葉翼部の横断面、(n, o) 枝葉、(p) 枝葉の葉身細胞、(q) 枝葉の翼部、(r) 枝葉の先端、(s, t) 茎の横断面、(u, , v, w, x) 偽毛葉

 エゾハイゴケ Hypnum lindbergii としたが、いくつも疑問が残る。平凡社図鑑には、エゾハイゴケの茎葉は「卵状披針形で先は比較的広く,弱く鎌形に曲がる」とある。本標本の茎葉は、強く鎌形に曲がり、葉先はさほど広くない。しかし、発生環境、フィールドにおける姿、葉身細胞、翼部の様子、などは図鑑類の解説とよく符合する。過去にエゾハイゴケとした標本(No.295No.235)と比較すると、茎葉や枝葉の形が、かなり違うように思える。典型的なものからはかなり遠いのか、あるいは別の種かもしれない。

[修正と補足:2010.09.12]
 タマキチリメンゴケ H. dieckii と修正した。平凡社図鑑やNoguchi(Part5 1994)でも茎の横断面で表皮細胞が透明薄膜で大形のものは、わが国では2種しか知られていないとされる。一つがエゾハイゴケ、いまひとつがタマキチリメンゴケだ。上述のように、標本No.295およびNo.235と比較して、本標本の茎葉や枝葉の形はあまりにも違いすぎる。
 初心に返って、観察結果だけに基づいてNoguchiにあたってみると、H. dieckii とする方が妥当であり、解説を読んでもより符合する比率が高い。識者の方からのご指摘にもあったが、これはタマキチリメンゴケとする方が妥当だと思われる。誤りの原因は、平凡社図鑑に掲載の両種の写真に囚われすぎたことに起因している。ご指摘ありがとうございました。