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[標本番号:No.1029   採集日:2010/10/12   採集地:愛媛県、久万高原町]
[和名:クジャクゴケ   学名:Hypopterygium fauriei]
 
2011年1月1日()
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a) 植物体、(b) 標本、(c) 乾燥時、(d) 湿時、(e) 背面、(f) 腹面、(g, h) 側葉と腹葉、(i) 側葉上半、(j) 側葉下半、(k) 側葉の葉身細胞、(l) 側葉先端、(m) 側葉の縁、(n) 側葉基部、(o) 腹葉、(p) 腹葉の葉身細胞、(q) 茎の横断面、(r) 朔の基部:苞葉

 四国の面河渓で採取したコケ類も残り数点になった。今日はクジャクゴケ属 Hypopterygium を観察した(alt 750m)。腐植土から岩にかけてクジャクの羽のような姿をみせていた。一本の二次茎を掘り出すと、地下を匍う一次茎は隣接する別の二次茎とつながっていた。
 枝は左右2列の側葉と腹葉が規則正しく整然と並ぶ。側葉は長さ1.2〜1.6mm、歪んだ卵形で非相称。葉縁には全周にわたって2列になった舷がある。中肋は葉先からずっと下で消え、葉面を左右不均等に分ける。葉面の広い側の縁には基部近くまで歯がある。葉中央部の葉身細胞は菱形〜六角形で、長さ20〜40μm、葉縁や葉頂ではやや小さく、基部中肋近くでは30〜45μm、平滑でやや厚膜。腹葉は類球形で、側葉よりずっと小さく、左右相称、葉先は急に尖り中肋は突出部に続く。腹葉の縁にも全周にわたって舷があり、葉の上半部には歯がある。茎の横断面には中心束はなく、表皮は比較的薄膜の細胞からなる。
 
 
 
(s)
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(t)
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(u)
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(v)
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(w)
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(x)
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(y)
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(z)
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(aa)
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(ab)
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(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(s, t) 苞葉、(u) 苞葉の葉身細胞、(v) 胞子体、(w) 朔、(x) 朔歯、(y) 朔歯の一部、(z) 外朔歯基部、(aa) 外朔歯先端、(ab) 内朔歯基部、(ac) 朔基部の気孔、(ad) 胞子

 苞葉は朔の基部を鞘状につつみこみ、先端は長く延びる。苞葉の中肋は先端に達し、葉身細胞は長さ40〜70μm、六角形。
 朔柄は茎の上部に1本〜数本つき、赤褐色で長さ2〜3cm。朔は水平ないしやや下垂し、長卵形で僧帽形の帽と、長い突起のある蓋をもつ。朔歯は二重で各々16枚。外朔歯は披針形で、下部には横条があり、上部から先端は大きな乳頭に被われる。内朔歯は高い基礎膜をもち、歯突起と間毛がある。朔の基部には気孔がある。胞子は球形で、径16〜18μm。

 フィールドでは帽や蓋をつけた朔が多数みられたが、標本ではそれらは殆ど落ちてしまい、蓋や帽を見つけられなかった。また、朔歯も崩れたものばかりとなっていた。内外の朔歯を分離するのは生個体からでないと難しいようだ。口環の有無はよくわからなかった。
 クジャクゴケ H. fauriei でよいと思う。念のために平凡社と保育社の図鑑をあたってみた。よく似たものにヒメクジャクゴケ H. japonicum があるが、側葉の縁の歯のつきかた、中肋の長さ、葉身細胞の大きさなどが異なるとされる。
 あらためて過去に採取したクジャクゴケ属の標本を再検討してみたところ、二つの誤りを見つけた。ヒメクジャクゴケとした標本No.604はクジャクゴケと同定するのが適切であり、クジャクゴケとした標本No.887はヒメクジャクゴケとするのが適切と判断し、両標本をあらためて再検討し「修正と補足」を加えて修正した。