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[標本番号:No.1081   採集日:2010/10/12   採集地:愛媛県、久万高原町]
[和名:ミヤマサナダゴケ   学名:Plagiothecium nemorale]
 
2011年1月7日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
(r)
(a) 生育地周辺、(b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 乾燥時、(f) 湿時、(g, h) 葉、(i) 葉身細胞、(j) 葉の先端、(k) 葉の基部、(l) 葉の横断面、(m, n) 茎の横断面、(o) 苞葉、(p) 苞葉の葉身細胞、(q) 苞葉基部の葉身細胞、(r) 胞子体

 四国面河渓で採取したコケの最後のひとつを観察した。ヤノネゴケ(標本No.1031 非掲載)を採取したところ、そこに混生していたものだ(alt 750〜800m)。処分するには忍びないので新たに標本番号No.1081を与えた。生態写真はケータイで撮影したものしかなく、ピントもかなり甘いが(b)、標本を取り出すとき、この写真をみてはじめて混在に気づいた。
 乾燥状態ではあまりつやがなく、葉が強く縮れていた。葉は、長さ1.8〜2.4mm、卵形で多少凹み、次第に細くなって鋭頭、全縁、基部は茎に細く下延する。中肋は二叉して短く、葉長の1/3以下で、1/2まで達する葉がわずかにある。葉身中央の細胞は長い六角形で、長さ70〜110μm、幅14〜23μm、薄壁で平滑。葉の基部ではやや大きくなり、矩形の細胞も混じるが、明瞭な区画は作らない。苞葉の葉身細胞には内容物がほとんど残っていなかった。
 
 
 
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(s) 朔、(t) 朔歯、(u) 外朔歯、(v) 外朔歯基部、(w) 外朔歯上部、(x) 内朔歯、(y) 内朔歯基部、(z) 内朔歯上部、(aa, ab) 朔基部の気孔

 朔柄は長さ2〜4cm。朔は傾いてつき、細長い円筒形で、長さ2.5〜3.5mm、やや非相称。朔は二重で、それぞれ16枚。外朔歯は披針形で、下半部は横条で被われ、先端部は乳頭に被われる。内朔歯の基礎膜は高く、間毛が出る。朔の基部には気孔がある。

 サナダゴケ属 Plagiothecium だろう。平凡社図鑑の検索表をたどるとミヤマサナダゴケ P. nemorale に落ちる。解説を読むと、観察結果とほぼ符合するが、茎の横断面については異なる。図鑑には属の解説で「(茎には)中心束がなく,表皮細胞は大きく」とあるが、本標本の茎には、明らかに中心束がある。また表皮細胞もさほど大きくない。これまでミヤマサナダゴケと同定した標本(No.630No.423No.35)のいずれにも、茎の横断面には弱い中心束が見られた。