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[標本番号:No.1195   採集日:2017/04/29   採集地:栃木県、矢板市]
[和名:イトハイゴケ   学名:Hypnum tristo-viride]
 
2017年8月14日(月)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
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(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a) 発生環境、(b, c) 植物体、(d, e) 標本:乾燥時、(f) 標本:湿時、(g) 枝、(h) 枝葉、(i, j, k) 枝葉、(l) 葉の先端、(m) 葉身細胞、(n, o) 葉の翼部、(p, q) 茎の断面、(r) 枝の断面

 終日雨だったこともあり、久しぶりにこけを観察した。4月29日に矢板市の八方ヶ原(alt 1,200m)で採取したコケがあと2点残っている。観察したのはそのうちの一つだ。すでに往時の色合いはなく、全体が茶褐色に変色して、水に戻しても元の緑褐色には戻らなかった。
 ハイキングコースわきの樹幹を覆うように生育していた。細い茎から羽状に3〜10mmの枝を出し、葉を含めた枝の幅は0.5〜0.8mm。茎葉は三角形の基部から長く細く漸尖し、長さ0.8〜1.3mm、上半部は鎌形に曲り縁には小さな歯があり、中肋は二本で非常に短く、多くの茎葉ではほとんど見られない。基部から翼部の細胞は黄褐色で、少数の大型の細胞がある。枝葉は茎葉よりやや狭い三角形の基部から細く長く伸び、上部は鎌形に曲がる。そのほかの形質は茎葉とほぼ同様。葉身細胞は線形で、長さ50〜70μm、幅5〜6μm、膜は薄い。翼部の方形細胞は長さ10〜20μm、膜はやや厚い。いずれの部分でも葉身細胞の表面は平滑。茎の断面で、表皮細胞は比較的小さく、やや厚膜。枝の断面で表皮細胞はやや大きく、やや薄膜。

 朔をつけたものは見つからなかった。ハイゴケ属(Hypnum)の蘚類には間違いないだろう。保育社の図鑑でも平凡社の図鑑でも、ハイゴケ属の検索は茎の表皮細胞の分化の程度から始まる。この段階でまず迷うことになった。というのは、明らかに茎と思えるやや太めのものの断面を切り出すと、表皮細胞が小さくて厚膜のものから、やや大きめのものまである。さらに細い茎、あるいは枝の断面を切り出してみると、表皮細胞が明らかにその内側の細胞より大きく、たいていは薄膜だった。ただいずれにせよ中心束はない。
 ここで葉の表皮細胞がよく分化して大きく薄膜の方を選べばミヤマチリメンゴケ(H. plicatulum)に、表皮細胞がほとんど分化せず小さくて多少厚膜の方を選べばイトハイゴケ(H. tristo-viride)に落ちる。そこで過去にミヤマチリメンゴケと同定した標本(No.0722No.0302)と比較してみた。すると本標本はミヤマチリメンゴケとするにはやや違和感を感じる。そこで、ここではいったんイトハイゴケとして扱っておくことにした。