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[標本番号:No.1208   採集日:2017/11/30   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ヒロクチゴケ   学名:Physcomitrium eurystomum]
 
2017年12月2日(土)
 
(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 茎と葉、(e) 葉、(f) 葉の上部、(g) 葉の中央縁、(h) 葉の基部、(i, j) 葉の断面、(k) 胞子体、(l) 朔と蓋と帽、(m, n) 朔の縁、(o) 若い朔と蓋、(p) 成熟した朔、(q) 朔の縁、(r) 朔基部の気孔

 朝の散歩の途中でふと畑を見ると色とりどりの朔をつけたコケが群生していた。日光市に転居してからは水を落とした田圃や畑などに出るコケを採取したのはこれが初めてだった。

 茎は短く、直立し、高さ3〜6mm、葉は茎の先端に集まってつき、下部では小さい。上方の葉は卵状披針形で、長さ1.5〜3mm、鋭頭、葉縁には弱い一列の舷があるかあるいは舷はなく、全縁あるいは上部に微歯がある。中肋は葉頂に達するか、短く突出する。葉身細胞は矩形〜六角形で長さ30〜80μm、幅18〜30μm、薄壁で平滑、基部では長さ100μmに及ぶ。
 胞子体は茎に頂生し、朔は直立し、相称。朔は洋ナシ形〜半球形で、長さ1〜1.2mm、幅1mm前後、蓋には中央に短い嘴があり、その外側には薄膜で長い突出部を持つ帽をかぶっている。朔には朔歯がない。朔の基部には多くの気孔がある。朔柄は短く、長さ4〜6mm、表面は平滑。胞子は球形で、径25〜35μm、やや暗い褐色で表面には微細な刺が密生する。

 ヒョウタンゴケ科 Funariaceae ツリガネゴケ属 Physcomitrium の蘚類に間違いない。平凡社図鑑によれば国内には三種が報告されているという。同図鑑のツリガネゴケ属の検索によれば、ヒロクチゴケ P. eurystomum かアゼゴケ P. sphaericum ということになる。ヒロクチゴケの胞子体は春に成熟するが、アゼゴケの胞子体は秋に成熟するとされるので、現地で見たときに当然のようにアゼゴケだろうと思った。
 しかし過去に出会ったアゼゴケ(標本No.580:1月26日に採取)と比較すると、中肋の様子、朔柄の長さなどに違和感がある。胞子の色も若干気になった。多くの葉で中肋が先端から突出していること、葉縁にわずかだが弱い舷が見られること、朔柄がアゼゴケの柄よりやや長く、胞子がやや暗い色をしている。胞子体を作る季節にはあまりこだわらない方がよいことは、常々感じてきたことなので、ここでは、春か秋かということは安定した形質とは考えず、本種をヒロクチゴケとして扱うことにした。