2009年2月5日(木)
 
子嚢菌のクロージャー
 
 先日千葉県の清和県民の森でクロハナビラタケを採集したので、捨てる前に顕微鏡で覗いて遊んだ。外見がよく似ているクロハナビラニカワタケとの比較は、雑記2003.4.2でやっているが、クロハナビラタケを検鏡するのはほぼ2年ぶりだ(同2007.3.17)。
 紙袋に容れて持ち帰ったのだが、とてもよく乾燥しているせいか、袋の底には小さな欠片がいくつも落ちていた。これに70%エタノール、3%KOHをかけてみた。エタノールでは緑褐色、KOHでは赤紫色の色素が滲み出した(b)。乾燥した標本はカミソリをあてるだけで粉々に砕けてしまう。水に浸してしばらく待ったが一向に埒が明かない。そこで、熱湯に浸すと褐色の色素を出してやわらかくなった(c, d)。これでようやく実体鏡下で切片を切り出すことができた(e)。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
 花びら状の部分の片側だけに子実層をつくる(e, f)。キクラゲ同様に、薄く切るのは難しい。メルツァー液を加えて子嚢を見た。子嚢は非アミロイド(g)。つぎに新たに切り出した切片をKOHで封入すると、子嚢や菌糸が赤紫色に変色しコントラストがはっきりした(h)。

 小さなソーセージ形の胞子は分かりにくく、側糸の先は円弧を描いている(i)。子嚢の基部や周辺の造嚢糸には、担子菌のクランプによく似たクロージャー(crozier : フック、鈎状構造、笏杖ともいう)が多数見られる(j, k)。しかし、子実層托実質や托外皮などにクロージャーはない。
 子嚢菌の子実体の核相は、たとえ複数の核を持っていようと、基本的に単相(n)だから、重相(n+n)に相当する造嚢糸にしかクロージャーは見られない。一方、担子菌の子実体では基本的に重相(n+n)だから、かさ肉やヒダ実質などの非子実層の組織にもクランプを見ることができる。もっともマツタケのようにクランプを作らない種ではこの限りではない。


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