初めてこのきのこに出会ったのははるか昔、まだきのこのことを殆ど知らず、山登りばかりしていた頃のことだ。奥秩父の山から下山の途中で人里近くの古刹の脇を通りかかったとき、薄暗い竹やぶの中にほのかに白い小さなピラミッドが幾つか美しい姿を見せていた。当時それがきのこであるとの認識は全く無かった。あまりにも印象的だったので、後日植物・菌類などに詳しい知人に尋ねた。キヌガサタケというきのこだと指摘され、図鑑を広げて見せてくれたが、まさにそこに掲載されていた写真そっくりの姿だった。その後も初夏の竹林の脇を通るようなときはいつも注意深く目を配りながら歩くようになった。その後も4,5回ほど出会う機会があった。
何年前のことだろうか、菌友に頼み込んでキヌガサタケの群落を案内してもらったことがあった。その日のため2日間の休暇をとり、京都まで車を走らせた。京都には竹林がとても多い。したがって、キヌガサタケの発生する環境は多数ある。このときも、初日からいくつものキヌガサタケに出会うことができた。夜は菌友ら4名できのこ談義が弾んだ。翌早朝、再び同じ場所に赴き、少しずつマントを広げて成長する姿にであって感激した。当時は一切写真を撮っていなかった。何時間でもただ熱心に観察するのみだった。サンプルとして幾つか持ち帰ったので顕微鏡で覗いた後、頭部のグレバを洗い落として食べてみた。これが思いのほか美味しくて驚いた。
翌年からはキヌガサタケの時期になると宇都宮やら秩父に出かけていくようになった。何度見てもその美しさ・繊細さには感動した。あわせて自宅近郊の竹林を網羅的に調べて回った。孟宗竹林に白いきのこがでるとか、白いタマゴ状のものがあるという話を聞くと、無理にでも仕事のやりくりをつけ現地に行って話を聞いた。たいていは白いきのこというのは傘と柄を持ったハラタケ目のきのこだった。白いタマゴ状のものは殆どがスッポンタケだった。川口市でもきっと発生しているはずだと考えて、その時期になるとあちこちの竹林を訪ね回っては探したが、これまでまだキヌガサタケにはお目にかかっていない。
ここ数年は、秩父で樹木医をしているNさんから発生の知らせをいただくようになった。タマゴが見つかったと知ると数日中に出かけて行くようにしている。何度も見ているにもかかわらず、毎年一度はお目にかからないと落ち着かない。そしてそのたびに新しい発見がある。やはりキヌガサタケは「きのこの女王様」である。その姿は人を魅了してやまない何者かを秘めている。(2002.12.22)
キヌガサタケの成長 持ち帰ったタマゴを自宅の植木鉢に据えて観察した成長の様子 |
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