もう遙か以前から長いこと日光を主たるフィールドのひとつとして定点観察を続けてきた。10年ほど前になるだろうか、6月の早い時期に訪れたときオオシャグマタケ(ホソヒダシャグマアミガサタケ)とシャグマアミガサタケがすぐ近くに並んで発生していた。最初見たときは両者ともにシャグマアミガサタケだろうと思って持ち帰ったのだが、胞子を見るとそのうちのひとつには、明らかにシャグマアミガサタケではなかった。胞子表面に網目があり楕円形の両端には嘴状の突起があるではないか。これはオオシャグマタケの特徴である。それまでは、日光でオオシャグマタケに出会えるとは思ってもいなかった。顕微鏡で観察した後は両者とも酒の肴にして食べてしまった。
翌年にはすっかり環境が変わっていた。それまでシャグマアミガサタケがいつも見られた場所が間伐などで大きく変化していた。シャグマアミガサタケがほとんど見られなくなってしまった。似通った形のものを持ち帰り覗いてみると、それらは皆オオシャグマタケだった。以前とは違ってシャグマアミガサタケの方がなかなか出会えないきのことなってしまった。その頃から定点観察地点内でのシャグマアミガサタケ探しが始まった。皮肉なことに同じ日光でも、定点観察地点以外でなら、シャグマアミガサタケは5月前半にかなり広範囲に見られるありふれたきのこなのだ。
何年か前から、きのこ仲間6人ほどで5〜6月の頃に「赤熊祭(しゃぐままつり)」と称して集まって酒を酌み交わすようになっていた。自分たちで採取したシャグマアミガサタケが酒の肴となる。最初はおっかなびっくりやっていた毒抜きやら調理もいつのまにかすっかり手慣れたものとなり、最近ではほとんど事務的に毒抜き処理をするようになっていた。
5月頃になると日光でシャグマアミガサタケ探しをするようになったのはごく自然のなりいきだった。ある時ミズナラの倒木からシャグマアミガサタケによく似たきのこがでていた。頭部の様子がやや異なり、柄がほのかに赤く非常に印象的な姿をしていた。シャグマアミガサタケよりもはるかに大きく、材から直接発生していた。持ち帰って調べてみると、これはPseudorhizina sphaerosporaというきのこであることまでは分かったのだが、和名があるのやらないのやらわからなかった。この手の大型盤菌類の胞子はたいてい楕円体をしているのだが、このきのこのそれは球形であった。
ある日懇意にしている北海道の佐藤清吉氏と電話で話しているときに、このきのこのことが話題になった。氏によれば、それはマルミノノボリリュウだろうという。柄の断面の形と胞子の姿が話題となり、まず間違いなくマルミノノボリリュウであるとのことだった。そして数日後に、観察データと詳細な写真が何枚も送られてきた。北海道で観察されたものというが、それはまさに日光で採取したものと全く同じものだった。翌年も同じ時期に同じ場所に出向いたが、マルミノノボリリュウには出会えなかった。
そして、2003年になってやっとまためぐり合うことができた。発生場所はかつての場所とは全く別のところであった。しかし、一昨年からこれまでに、このきのこに出会うためにいったい何度日光に足を運んだことだろう。十数回は下るまい。(2003.6.12)
月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
Month | Jan | Feb | Mar | Apr | May | Jun | Jul | Aug | Sep | Oct | Nov | Dec |
Data | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
2000/06/17 栃木県、日光市にて | 2000/06/17 栃木県、日光市にて 裏面からみた姿 |
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2003/06/11 栃木県、日光市にて | 2003/06/11 栃木県、日光市にて 裏面からみた姿 |
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2004/06/13 栃木県、日光市にて |