長いこと捜し求めていたケシボウズの仲間に久しぶりに出会えたのは2002年12月のことである。このとき出会ったものはケシボウズタケとかナガエノケシボウズタケ(ナガエノホコリタケ)、アラナミケシボウズタケといった既によく知られた種ではなく、まだ国内では未知種とされているTulostoma striatumであった。そして、その後何度か千葉県の砂浜にケシボウズタケを求めて出かけたのだが、出会ったものはいずれも未知種やら前述のTulostoma striatumであった。
最初のうちは外房の九十九里浜を、南部の一宮海岸からはじめて北部の木戸浜までの砂浜を、ケシボウズを求めてこまめに歩き回った。11月も後半になると、海辺は冷たい風が吹き、風の強い日などは砂粒が顔にあたってとても痛い。晩秋から真冬までの寒い時期に砂浜を歩き回る人影はほとんど無かった。12月の日中には、松林の中にシモコシやショウロを探す人たちの姿がみえた。また浜にはサーファーの姿があった。
2003年1月と2月にはいくつかの砂浜で何度かケシボウズの仲間に出会うことができた。しかし、それらの大部分はT. striatumだったり、同定できないままにサンプルとして保存するのみだった。2月6日に採取したケシボウズにナガエノホコリタケが含まれていた。さらに3月に入ってこれまでとは視点を変えて、千葉県の内房の浜を歩いてみた。13日に2ヶ所で出会ったケシボウズの仲間は、いずれもややミイラ化してはいたものの、ナガエノケシボウズタケかアラナミケシボウズタケを思わせるものだった。
最初メチレンブルーで染めた胞子を見たときに、その表面には疣状あるいは刺状突起ばかりではなく、やや形の崩れた網状の構造がみえた。このため、推測していた2種のいずれかとは別種のケシボウズではあるまいかと考え、いろいろと調べてみた。しかし、いろいろ調べていくと、胞子表面の特徴を除けば、ナガエノケシボウズタケの特徴と非常によく似ている。腑に落ちないままに数日が経過していた。
再度19日に改めて初心に帰って胞子を検鏡してみた。今度はフロキシンで着色した5%KOHでマウントした。顕微鏡の中に現れた映像には明瞭な疣状突起があった。斜光照明にしてみたり、顕微鏡を変えてみたりしたが、やはり表面には疣状突起が明瞭に捕らえられた。この時点でやっとナガエノホコリタケであるとの確信をえることができた。
不思議なものである。いまだにケシボウズタケ(Tulostoma brumale Fr.:Fr.)にもウロコケシボウズタケ(Tulostoma squamosum Gmelin:Persoon)にも出会えていない。もっともウロコケシボウズタケは砂地ではなく、石灰岩まじりの荒地に発生するということであるから、いくら海辺を歩いても見つかるはずはない。かつて奥多摩や秩父などの石灰岩地帯の山道の脇を探して歩いたことがあったが、そう簡単に見つかる代物ではない。
ナガエノホコリタケという名称はまぎらわしいのでナガエノケシボウズタケと改めたらどうかと提唱されたのは吉見昭一先生であった。そうなると、今度は「長柄」という形容語に惑わされて、他のケシボウズの仲間と比較したとき、長い柄を持ったケシボウズというようにも受け取られかねない。実際には他のケシボウズの仲間と比べたときに、ナガエノホコリタケの柄が特に長いわけではない。(2003/03/18)
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