きのこの図鑑などでは、白から淡黄褐色の柄がすくっとのびてその先端に顕著な縦皺をもった頭巾をかぶった姿が載っている。ところが現実にはなかなかこういった整った姿をした個体には出会えない。このキノコの柄は非常に脆くて弱い、一方、頭部はかなりしっかりしており相対的にかなり重い。そのためだろうかある程度成長すると傾き始める。だから成菌の多くは斜めになって今にも倒れそうな状態となる。そしてやがてそのまま柄が曲がって倒れてしまうか、柄の根元からプッツリ折れてしまう。だから、直立状態の成菌の姿を撮影するにはいくつかの恵まれた条件が必要だ。
ある年、立派に育った成菌がまっすぐに整った姿をして多数発生している現場にであった。まずはいつもどおり一つ一つゆっくり観察しながら見て回った。50〜70個体をていねいに見ているうちに、すぐに2時間ほどが経過していた。次に撮影に先立って絵になる個体をじっくり選ぶつもりで、これはと思える個体のそばに目印の棒をたてていった。一通り見終わって、さぁそれでは撮影にかかるかと思い、最初の頃に目印の棒を立てた個体のそばに行ってみた。すると、先ほどまでスクッと直立していたはずのきのこはどこへ行ったやら、柄は大きくしなっていたり、既にキノコ全体が倒れてしまっている。このときは結局最後の方に選んで目印の棒を立てた個体が数本残っただけで、初めの頃に目印をたてた個体は既に直立状態からは程遠いものばかりになってしまった。
大きなサイズの胞子をもったきのこは、一般に担子菌よりも子嚢菌の方に多い。それらの中でもオオズキンカブリタケの子嚢胞子ほど巨大なものは他には無いのではあるまいか。多くの子嚢菌ではひとつの子嚢の中に8つの胞子がみられる。しかし、オオズキンカブリタケはたいてい2つの胞子しかない。時には4つの胞子をもった子嚢も見られるが、どちらかというと3つ以上の胞子を持った子嚢はまれである。最初から2つないし4つの胞子を作るのか、あるいは最初8つの胞子を作って成長の初期に他の6つが退化してしまうのか、既に解明されているのだろうがそのあたりのことは不勉強にしてわからない。
これだけ大きな胞子をつくるのでちょっと倍率の高いルーペなら現場で胞子を見ることができる。実体鏡の下に置いた個体を眺めているときに、胞子が放出される姿を何度かみている。初めて胞子が放出される瞬間を見たとき、とてもその大きなものを胞子とは思えなかった。サイズが70〜94×18〜24μm、なかには100μmを超すものもある。つまり0.1mmもあるのだから、点の様にではあっても肉眼で見えても不思議は無い。なぜこれほど巨大な胞子を作るようになったのだろうか。きのこの胞子を大きいほうから並べて番付表を作ったら、間違いなく横綱であろう。同じ仲間のテンガイカブリタケも大きな胞子を持っているが、これほどの大きさは無く、子嚢の中には8つの胞子をもっている。(2003.04.29)
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