子嚢菌に興味を持ち出した頃からずっと憧れていたきのこのひとつで、一度自然に発生している姿を見たいと思っていた。数年前まではこのキノコを見るためだけに10月の北海道まで行くことも考えていたが、なかなか時間がとれなかった。北海道の知人にはセンボンキツネノサカズキについての情報もいろいろと知らせてもらい遠からずでかけるつもりでいた。
昨年(2001年)末に刊行された日本菌学会東北支部編「東北のキノコ」を見て驚いた。そこには1995年頃から福島県川内村でも発生が確認されていると記述されていた。早速地図を見て場所のあたりをつけたが、果たしてその場所で間違いないのかどうか、はなはだ疑問でもあった。ぐずぐずしているうちに2002年もきのこ最盛期に入ってしまった。そんなある時、何気なくいわき市在住の奈良俊彦氏にこの話をすると、「その場所なら私が熟知しているところだ。毎年同じ地域に発生している。」という。氏はいわき市に住み地元では著名なきのこ研究家であり、菌学会東北支部の会員でもある。縁あって数年前から懇意にしていただいている尊敬すべき人物である。これを契機に話はとんとん拍子に進んで、さっそく氏に現地を案内していただくことになった。
台風一過の2002年10月2日早朝、期待に胸を膨らませて高速道路を走り続けた。インター近くで落ち合い、奈良氏の自宅に立ち寄ってしばし雑談をした後、川内村の現地に向かった。前日に直撃した台風のために道路のいたるところに折れた樹木が転がっていたが、幸い不通個所もなく無事に現地にたどり着いた。場所は地図であたりをつけていたところに非常に近かった。しかし、自分たちだけで現地に行って探しても、発生地点にはたどり着けなかっただろう。地図上での場所の特定はほぼ当たっていたが、現地は初めての場所である。土地勘を得るまでにかなりの時間も必要となる。若いコナラ主体のこざっぱりした西向き斜面で、笹などの下草はほとんどなく足元にはやや湿った落ち葉が降り積もっていた。同じ斜面にはクチベニタケなども見られた。この界隈ではコウタケがよく採れるという。
センボンキツネノサカズキは、思っていたよりも細いコナラの落枝から美しい姿で迎えてくれた。塊の長径15〜20cmほどの株もいくつか見つけることができた。この日みつけた個体は全体にやや若く、外面と柄を覆う白い毛がまだ十分に育っていないものが多かった。発生している材は思いのほか芯材が硬く、いずれもまだ樹皮に覆われたものばかりであった。樹皮がすっかり落ちてしまったような材に出ているものは全く無かった。
かなり以前にマイタケ採りの古老や釣り師などから「小さなきのこが寄せ集まったような淡いピンク色の塊状のきのこ」の話を聞いたことがある。自分たちのフィールドにしている日光でのことだが、この話を最初に耳にしたとき、それはセンボンキツネノサカズキに違いないと思った。北海道にしかないとされていたホシアンズタケさえ出るのだから、きっとセンボンキツネノサカズキだってあっても不思議はない。そう思ってここ数年来、日光でもセンボンキツネノサカズキを探してきた。今のところまだ見つかりそうな感触は得ていないが、川内村で発生環境を実際の目で見てきたので、探すポイントの手がかりは掴めたと思っている。(2002.10.11)
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