学名にammophilaというラテン語が使われているきのこがいくつかある。ammo-とはギリシャ語由来の言葉で「砂の」といった意味であり、-philaとはやはりギリシャ語由来の接尾辞で「〜を好む」といった意味を持っている。このキノコは「砂地を好むPsathyrella」というように生態がそのまま学名となっている。同じようにスナヤマチャワンタケもPeziza ammophilaというように、学名を見ただけで砂地を好むチャワンタケということがよくわかる。この両者ともに実に適切な和名が与えられたものだと思う。これに対してスナジアセタケの学名はInocybe niigatensisであり本郷次雄氏による命名でありammo-という語は使われず、「新潟の」という意味のniigatensisが使われている。スナジクズタケとスナヤマチャワンタケは海岸の砂浜に出ることで共通しているが、スナジアセタケの方は、砂浜ではなく防風林などの松林樹下に出るので、ammo-と付いていないのは、ある意味とても適切な命名であったように感じている。
海岸の砂は強風で簡単に移動する。砂丘を作ったり、みごとな風紋を作り出したりする。多くの生物がこういった環境にも適応して生きている。しかし、海岸の防風林から海の方に一歩足を踏み出すと、途端に植物は少なくなりその種類も限られてくる。砂漠にも多様な生き物が生息しているように、海岸の砂浜にも意外と多くの生き物を見ることができる。きのことて例外ではない。そんな中でかなりの頻度で見られる代表的なきのこのひとつがスナジクズタケである。
初めてスナジクズタケに出会ったのは茨城県波崎の砂浜だった。さんざんケシボウズタケを探し歩いて少し疲れたので、気分転換のために水辺に近いあたりに足を運んだ。ほとんど植物もない砂山にきのこの傘のようなものが見えた。まさかこんなところにきのこがあるとは考えてもいなかったので、一瞬眼を疑った。カラカラに乾いた砂地に誰かがいたずらをして、他で採取したきのこを置いていったのだと思った。静かに傘の下を掘ってみると、砂にこそまみれているが新鮮なきのこがでてきた。よく見るとさらに別の場所にも同じように出ている。一本だけ単生しているものもあれば、数本が束生しているものもある。中にはほとんど砂に埋もれてわずかに傘の一部が砂の上に姿を見せているものすらあった。
保育社の原色日本新菌類図鑑にはただスナジクズタケという名称が記述されているばかりで、どんなきのこやら全くわからない。結局海外の文献をいくつか調べて初めてそれがスナジクズタケであると判明した。それ以降、砂浜に出向くときには必ず、探してみるようになった。すると意外なことに茨城は無論、新潟やら千葉の砂浜でも次々に見つかった。スナヤマチャワンタケなどのすぐ近くにでていることも何度かあった。時には漂流物しかないような満潮時には水面下に沈んでしまうかと思われるような場所にもでている。いったい何を餌にして生きているのだろうか。
海辺の砂浜には他にも思いがけないきのこがいろいろ見いだされて驚かされる。スナジクズタケからは実にいろいろなことを教えられたような気がする。(2003.3.7)
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