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顕微鏡の焦点深度

この記事は「今日の雑記」2004年9月18日、3月7日等をそのまま転載したものである

  040125_day
2004年9月18日()
 
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(3)
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(5)
(5)
(6)
(6)
 今月はじめ頃、胞子をつけ基部まで写った担子器の姿をアップした(雑記2004.9.5)。自分の顕微鏡は性能が悪いから、担子器の全体像などは見えない、高性能の顕微鏡を使えば、誰にだってこの程度の映像は簡単に撮影できるはずだ。そういう内容のメールをいくつかいただいた。

 きのこ図鑑などには担子器の全貌が描かれている。こういった図をみると、顕微鏡下ではきっとそういった姿を見ることできるのだろう、そう思っても不思議はない。しかし、胞子や担子器などの大きさに比較して、顕微鏡で焦点の合う範囲というのはとても狭い。
 顕微鏡できちんと焦点があって見える範囲を表す言葉に、客観的焦点深度、主観的焦点深度というものがある。焦点深度の「客観的」とは純粋にレンズの焦点が合う範囲、「主観的」とは人の目の補正能力によって焦点が合う範囲をいう。目で見ている時には、この両者の和が焦点深度として現れる。

 図(1〜6)の(a)は客観的焦点深度であり、(b)は両者の和である。レンズが高倍率になるほどこの幅は狭くなる。目で見ているときには、(b)の厚みまではほぼきちんと焦点があっているように見える。しかし、カメラで撮影するときに焦点が合うのは、この(a)の範囲だけである。ただ、(b)の範囲まではやや甘いがほぼ焦点があっているように見える。
 一方、スライドグラス上でマウント液中に浮いている担子器などは水平状態を保っているわけではない。大部分は傾いた状態ではないだろうか。水平状態でなおかつ他の組織と重なり合わない状態のものは意外と少ないのではないだろうか。
 きのこのヒダなどから最初に切り出す切片が厚いと、組織が何重にもかさなりあって、特定の担子器だけに絞ってみることは難しい。また、厚めの組織をそのまま押しつぶしてしまうと、形は崩れるし、ごちゃごちゃして目的のものを捉えるのが難しい。
 薄い切片を作っても、マウント液の中では多くの担子器は水平を保っていない。だから、頭部に焦点を合わせると(1, 4)基部はボケるし、基部に焦点を合わせると(2, 5)、頭部はボケてしまう。うまく(3)や(6)のような状態のものを見つけることが最初の仕事になる。ところがこういった状態のものは非常に少ない。
 先の担子器の写真は図で言えば(6)のケースということになる。よほど運が良くないとこういう状態の担子器をて撮影できるチャンスというものは少ないのではないか。なお、図(1)〜(6)で「スライドグラス」として図式化したのはガラスの表面付近だけである。



2004年3月7日()
 
対物100倍の焦点深度
 
 走査型電子顕微鏡による解像力には及ぶべくもないが、ていねいに観察すれば光学顕微鏡だけでもかなり微細な構造まで捉えることができる。
 一点にピントを合わせたときに同時に焦点の合っている上下の厚みは次式で表される。
(a) n
λ
NA
媒質の屈折率 (水1.0、オイル1.515)
光源の波長 (緑色光 550nm)
開口数 (対物100倍 1.25〜1.40)
 この式を使って対物油浸100倍レンズの焦点深度を計算してみると、0.17〜0.27μmほどとなる。肉眼で観察する場合は、この客観的焦点深度の2倍程度までは目の調節作用で見える。それにしても対物油浸100倍レンズを使った場合には、焦点の合う厚み(深さ)は1μmもない。
 したがって、微動ネジをわずかずつずらしながら観察していくことは必須である。径5μmほどの胞子なら、最上部の胞子表面から、胞子の厚みの半分くらいに位置する輪郭部まで5〜8回はピント修正が必要となる。そうしてはじめて胞子の全体像がつかめることになる。



2004年5月11日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
 顕微鏡の焦点深度には、客観的焦点深度主観的焦点深度があるとされる。客観的焦点深度とはレンズのみの焦点深度をいう。主観的焦点深度とは人間のもつ目の調節機能によって付加される焦点深度をいい、人により年齢により異なる。いずれにせよ、肉眼で見るときにはこの両者の焦点深度の和でみているので、かなりの幅を明瞭に捉えることができる。

 先日(5/7)採取したウメウスフジフウセンタケの胞子紋から胞子を水でマウントして覗いてみた。微動ネジを操作し、合焦位置をほぼ1μmずつ下げながら、胞子表面から輪郭部周辺までを順に撮影してみた(a〜e)。この撮影データは客観的焦点深度のみを反映している。肉眼で見ているときには、それぞれはるかに鮮明に見えていたことを記しておこう。
 油浸対物100倍レンズを使ってみたときの客観的焦点深度は0.2〜0.3μであるが、肉眼で見ている場合にはこれに主観的焦点深度が加わり0.4〜0.7μmくらいの範囲まで焦点が合う。だから、肉眼でかなりの範囲に明瞭に焦点が合って見えるのに、撮影データを見るとそれほどの明瞭さがみられないのは、客観的焦点深度が正直に表現されてしまうからだ。



2004年6月2日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 去る5月11日に担子菌のウメウスフジフウセンタケの胞子を使って、焦点深度による見え方の違いを楽しんだが(雑記2004.5.11)、今朝は子嚢菌の胞子を使って同じことをやってみた。素材に使ったきのこは先日(5/30)川崎市生田緑地で採取されたとても小さなベニサラタケだ。
 今回も、微動ネジの操作で合焦位置をほぼ1〜1.2μmずつ下げながら、胞子表面から輪郭部周辺までを順に撮影した。胞子は見やすくするためにフロキシンで染めた。顕微鏡を覗いているときは、無意識に微動ネジを操作しながら、全体像を観察している。こうして部分撮影をしてみると、あらためて人間の目の補正機能というものは優れたものだと痛感する。
 「自分の顕微鏡は安物なので、図鑑に描かれているような胞子の姿をみることができない」といった話をよく聞く。図鑑類や論文などに描かれた図は全体像が分かるように表現されているのであり、顕微鏡の視野の中に図に描かれたような像が見られるわけではない。