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[標本番号:No.108   採集日:2007/02/12   採集地:静岡県、静岡市]
[和名:キヨスミイトゴケ   学名:Barbella flagellifera]
 
2007年2月24日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 2月12日に南アルプス南部の林道で採取したコケ標本も、やっと最後の一種となった。林道が大きく曲がりくねり、沢の支流をまたぐ場所で、樹枝から垂れ下がったコケが目に付いた(a)。絹のようなツヤがあり、感触としてはハイヒモゴケ科のコケのように思われた。
 以前奥多摩の石灰岩地帯の源流でアオシノブゴケがまるでハイヒモゴケ科のコケのように樹木から多数垂れ下がっていたこともあるので、ちょっとみただけでは、うかつに判断できないと思った(覚書2006.12.30)。近づいてみると、羽状の分枝はしていない。
 茎は枝をはう部分では、やや扁平で幅広の葉をつけ、そこから先は枝から垂れ下がり、葉も放射状に茎に接するように着いている(b, c)。枝から下がる茎は、長いものでは40cmをゆうに超える。水没させて(c)、ルーペでみると先端の細長い葉が着いている(d)。
 茎の基部の葉は卵状披針形で、細い中肋が葉の中程まで延び、葉の先端は急激に細くなって芒となっている。枝葉は茎葉より小さくて、卵状披針形で、中肋は葉の中程で消え、茎葉よりもさらに長い針状になっている(e〜g)。縁には小さな歯がある(h)。
 葉身細胞は茎葉も枝葉もほぼ同じような形と大きさで、線形〜長い菱形で、長さ55〜80μm、ひとつの細胞の中央付近に1個の乳頭がある(h)。翼のでは明瞭に分化し、長さ15〜35μm、幅10〜20μm、厚膜方形細胞からなる(i)。褐色を帯びたものが多い。
 葉の基部と中央部で横断面を見た。基部では中肋に続いて細身の葉身細胞、その先に方形の太身の細胞が続き(j)、中央部では、全体が細身の細胞からなる(k)。茎の断面を見ると、基部の茎でも垂れ下がる枝でも、いずれも同様に、表皮は厚壁の小さな細胞からなり、内部は中心束はなく、薄壁の大きな細胞からなっている(l)。
 ハイヒモゴケ科の検索表をたどると、イトゴケ属に落ちる。イトゴケ属の検索表からはキヨスミイトゴケとなった。キヨスミイトゴケ Barbella flagellifera についての詳細な記載を読んでみると、まず間違いなさそうだ。出会ったのはこれが二度目になる。
 それにしても、このような細くて小さな葉の横断面を切り出すのは難しい。カミソリをケチって数日前から何度も試用している刃先を使ってしまった。結果は上手く切れず、組織を引きずったような切り口となり、葉緑体など細胞内容物がはみ出してしまった(k)。できれば、新しい種を切り出すたびに、新しい刃を使えるとよいのだが、なかなかそうもいっていられない。