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[標本番号:No.333 採集日:2007/09/09 採集地:群馬県、嬬恋村] [和名:オオホウキゴケ 学名:Jungermannia infusca] | |||||||||||
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群馬県嬬恋村の標高1,200mあたりのコナラ・ミズナラ林を通る林道脇の湿った岩壁に、苔類の小さな群がいくつかあった(a)。ルーペでみると、どうやらツボミゴケ科 Jungermanniaceae の苔類らしい。手元には、観察中のミズゴケ類などがいくつもあるのだが、油体の確認が必要なので、他の標本に先立って、この苔類を調べてみることにした。 一個体をとりだして背面(c)、腹面(d)、花被(e)を確認してみた。茎は長さ2〜2.5cm、仮根が茎の腹面に多数つき、茎の下部は淡褐色〜紫褐色の仮根が厚い層をなす。葉は斜め瓦状に広く開出し、茎を包み(c, d)、長さ1.5mm前後、卵形〜舌形で、縁は全縁(f)。複葉はない。 葉身細胞は、類円形〜楕円形で、葉の部位によって大きさには幅があり、長さ25〜70μm、薄膜でトリゴンは大きい(g〜i)。油体は、各細胞に3〜8個あり、球形〜楕円形で、微粒の集合体のようにみえる。ペリギニウムが発達し、最も内側の雌苞葉が造卵器よりずっと先まで達し、花被には何本かの稜がみられる(e, j)。
平凡社図鑑のツボミゴケ科を開くと、15属への検索表が載っている。とりあえず、この検索表にあたってみた、筒状の花被があり、花被の上部は細くなり、葉は2型を示さず、腹縁は外曲せず、雌苞葉は葉と似た形をして、縁は全縁。さらに、葉は切れ込まず、花被にペリギニウムがみられ、複葉はないことから、ツボミゴケ属 Jungermannia に落ちる。 ペリギニウムが発達し、最内側の雌苞葉が造卵器よりも上につくから、p.247の検索はパスできる。p.248で、B. 葉は円頭 → C. 仮根が葉の中央部から出ることはない・・・ → D. 無性芽がない。油体がある。 → E. 鞭枝はほとんどでない。→ F. 茎は・・・仮根は束にならず・・・ → G. 雌雄異株 → H. 葉縁の細胞はほかの細胞とほぼ同じ・・・ → I. 茎は・・・花被は多稜 → J. 葉は長さが幅より長く、卵形〜舌形 → K. 葉は・・・葉身細胞の表面は平滑・・・ L. 葉は斜めに展開・・・ → M. 植物体は小さく・・・ とたどることが出来る。
ここまでたどる過程で気づいたのだが、「M. ・・・」の項目の「3mm」は「3cm」の誤植だろう。「M.」までたどって残るのは、オオホウキゴケ Jungermannia infusca とツクシツボミゴケ J. truncata だけとなる。ここで再び「トリゴンは大きい」とかかれた「N.」を選ぶと、オオホウキゴケだけが残る。あらためて、オオホウキゴケの写真(PL.138)を見てp.249の記述を読むと、観察結果と概ね一致する。しかし、いくつか問題となる相違点がある。
保育社図鑑のオオホウキゴケを読むと、採集地の標高を除くとほぼ一致する。この図鑑では葉身細胞は「平滑またはかすかにベルカがある」となっている。井上『フィールド図鑑 コケ』(1986) では、「常緑樹林のコケ」というジャンルに掲載され、「関東地方に多い。日本特産」とある。さらに「全体にわずかに芳香がある」と書かれているが、本標本では、芳香は感じられない。井上『日本産苔類図鑑』築地書館(1974) のp.52-53にある記載と図を見ると、観察結果に近い。「ノート」に「本種は種として西日本にふつうにみられるが、割合に多型的で葉形、大きさなどは変化しやすい。互いによく類似した種が同じような生育地にみられ、各種類の分類が明瞭でないことばしばしばみられる」とある。 |
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