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[標本番号:No.314 採集日:2007/08/25 採集地:長野県、富士見町] [和名:フサゴケ 学名:Rhytidiadelphus squarrosus] | |||||||||||||
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長野県の入笠山の標高1,815m付近で、先日観察したヒヨクゴケと同じような環境に、茎が赤みを帯びたコケが大きな群落を作っていた(a, b)。茎は、長さ10〜15cmにおよび、不規則に羽状に分枝する。乾燥しても葉は縮むことなく、開出したままで、見た目の姿はほとんどかわらない(c)。茎に毛葉は全くみられず、茎葉も枝葉も途中から大きく反転している(d, e, k)。 茎葉は広卵形で、急に細くなり、長さ2.5〜3mm、先端が長く伸びる(e, f)。葉先は葉の中程から反り返り、葉の基部は再びやや狭くなる。葉の上半部から葉先にかけては、微歯がみられ、翼部が褐色で明瞭に分化している(g, i)。中肋は2本あり、細くて葉の中程までは達しない(r)。 葉身細胞は、線形〜イモ虫状で、長さ50〜80μm、幅3〜8μm、平滑で、葉の基部に近い部分では膜の随所にくびれが見られる(h)。葉の基部は褐色で、翼部の細胞は大形の矩形となっている(i)。茎葉の横断面をみると、細胞壁は意外と厚い(j)。 枝葉は茎葉より小さく、長さ1〜2μm、卵形の基部から反り返る様にして、細い先端部が長く伸びる。中肋は2本あり、長くても葉の中程までしかない。葉の上半部と芒状の部分には微歯がある。葉に顕著な縦皺はなく、中央部が大きく凹んでいる。 |
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枝葉の葉身細胞も、茎葉同様に線形で、葉の中程では、長さ30〜70μm、幅3〜5μm、茎葉の葉身細胞より細めである(n)。葉先の細胞は茎葉同様に、長楕円形〜線形で、幅は中央部付近と比較して太い(m)。翼部の細胞は褐色で、長い矩形である(o)。枝葉の横断面(p)は、茎葉の横断面(j)よりも一回り小さな細胞からなっている。茎と枝の断面をみると、表皮細胞は厚壁の小さな細胞からなり、弱い中心束が観られる。
茎は這い、不規則羽状に分枝し、茎の横断面で表皮細胞は厚膜で小さく、毛葉をもたず、葉は急に細くなって長く伸び、中肋が2本あることから、フサゴケ科(イワダレゴケ科)の蘚類だろうと見当をつけた。属への検索表にあたると、中肋が2本で葉身細胞は平滑で、背面に牙などはないから、フサゴケ属となる。
保育社図鑑ではコフサゴケに R. japonicus、フサゴケに R. subpinnatus をあてている。平凡社の図鑑でもコフサゴケにあてた学名は同一であるが、フサゴケには R. squarrosus をあて、R. subpinnatus はそのシノニムとして記される。 フサゴケとコフサゴケという和名の問題、Rhytidiadelphus 属をめぐる学名の混乱は現在はどうなっているのだろうか。また、現在の考え方では、旧フサゴケ科はハイゴケ科とイワダレゴケ科のいずれに編入するのが妥当とされているのだろうか。
[修正と補足:2007.10.04] |
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両者ともに、太い茎についた茎葉は、横広部分から細長部分に移る部分は大きくそり返って、筒状に丸まり、急に細くなったように見える。両者を水没させた状態で比較してみた(s, s')。次に茎から葉をはずしてスライドグラスに載せて比較し(t, t')、頻度の高い形を並べた(u, u')。これをみると、(u)では急に細くなり、(u')では緩やかに細くなっているように見える。ここまでは、ルーペや実体鏡で判定可能な世界である。 水封して顕微鏡にかけた(v, v')。No.180の茎葉(v)とNo.314の茎葉(v')を比べると、明らかに違うように見える。しかし、No.314の茎葉にも、先にコフサゴケとして掲載したNo.180の茎葉(w)と、ほとんど同じ形の茎葉(w')が同一茎に15〜25%ほどある。ただ、よく見ると、No.180の茎葉(w)の主要部は類円形だが、No.314の茎葉(w')のそれは丸みを帯びた三角形に見える。
保育社と平凡社の図鑑にあるコフサゴケ R. japonicus の図版の茎葉の形状に準拠して判断すると、No.180の標本はコフサゴケでよさそうだ。しかし、本標本(No.314)は、R. squarrosus とするのが適切なようである。平凡社図鑑の記述に準拠して、フサゴケという和名を採用する。 |
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