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[標本番号:No.404   採集日:2008/03/29   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:エゾヒラゴケ   学名:Neckera yezoana]
 
2008年4月29日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 栃木県佐野市の標高260m付近の道路脇の樹幹についていたコケを観察した(a, b)。日なたにあってすっかり乾燥しており、ゴワゴワとした硬い感触だった。乾燥しても、葉は茎や枝に密着気味になる程度で、縮むことはない。葉の様子は、乾湿によってあまり変化はない(c)。
 一次茎はわずかな葉をつけて樹幹をはい、そこから立ち上がった二次茎を出す。二次茎は4〜6cmほどで、不規則な羽根状に分枝し、枝は葉を密につける。ルーペでみると雌苞葉にすっかり隠れるように沈生する形で、朔が多数ついている(d)。
 葉は卵形〜卵状披針形で、長さ1.2〜2mm、葉頂は急に尖り、縁は全縁、葉面は凹状となって、細くて弱い中肋が葉の中程を超える位置まで達する(e, f)。
 葉身細胞は、葉先付近では菱形で、長さ15〜30μm(g)、葉の大部分では長楕円形〜虫状で、長さ40〜100μm、幅6〜10μm(h)、翼部ではやや幅広の矩形の細胞がみられる(i)。いずれの部分でも厚壁で、壁にはところどころ弱いくびれがみられる。葉の横断面をみると膜が厚いことがわかる(j)。中肋部の切り出しは失敗した(k)。二次茎と枝の横断面には、いずれも中心束はない。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 雌苞葉にすっかり沈生している朔がみられた(d, m)。朔を苞葉から外してみた。すでに帽は失われ、一部に嘴状にとがった蓋をつけていた。雌苞葉は、枝葉とは形状が異なり、広卵状披針形で、葉先は芒状に長く延びる(n)。
 朔歯は16枚で、一重で、乾燥時は閉じ、湿ると開く(o)。外朔歯のみで、内朔歯はみられない(p)。内朔歯があるとすれば、外朔歯に付着して小さく痕跡が残っている程度と思われる。外朔歯は披針形で、よく見ると、表面は微細な突起に被われている。口環はみられない。

 樹幹をはう一次茎があり、立ち上がった二次茎をもち、葉は覆瓦状につき、乾燥しても葉が縮れず、葉には弱い一本の中肋があり、朔は直立して沈生していること、などからイトヒバゴケ科 Cryphaeaceae の蘚類と思われる。観察結果に基づいて、属への検索表をたどると、スズゴケ属 Forsstroemia に落ちる。種への検索表をたどるとフトスズゴケ F. neckeroides に落ちる。種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。

[修正と補足:2008.04.30]
 識者の方から、フトスズゴケとはだいぶちがう、とのご指摘をうけた。フトスズゴケではない証として、観察結果の写真などから、顕著な特徴について、5点ほどのコメントもいただいた。エゾヒラゴケ Neckera yezoana を検討するよう提案されていた。以下引用させていただくと、

フトスズゴケは,
 写真(d):葉に横皺が出ることはない。むしろ弱い縦皺が見られる
 写真(e):葉の先端は鋭く尖る
 写真(h):葉身細胞は長めの菱形の感じで,長くは伸びない
 写真(i):翼部はもっと広くてよく目立つ。翼細胞はむしろ横長の方形
 写真(m),(n):雌苞葉はこんなに細長く伸び出さない。やや急に尖る
 あらためて、詳細に検討したところ、フトスズゴケとの判断は明らかに誤りであり、ヒラゴケ科 Neckeraceae の蘚類と考えるのが妥当だと感じた。ヒラゴケ科の蘚類について、Noguchi "Moss Flora of Japan" など、いくつかの文献にあたったが、提起されたエゾヒラゴケとするのが、正しい判断と思われる。ここに経過を記して修正した。
 以前にも、同様の誤りを犯している。2007年12月に観察したNo.359のチャボヒラゴケだ。このときも、やはり観察結果の解釈に大きな誤りがあり、フトスズゴケだろうと結論づけていた。顕微鏡での確認以前に、ルーペでみた段階で、葉の付き方、形態、横シワがあることから、直ちにヒラゴケ科を疑うべきであった。
 ご指摘と適切なコメントありがとうございました。