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[標本番号:No.455   採集日:2008/06/24   採集地:東京都、奥多摩町]
[和名:タチヒラゴケ   学名:Homaliadelphus targionianus]
 
2008年7月29日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 6月24日に奥多摩で、陽当たりのよい石灰岩壁に一見してヒラゴケ科 Neckeraceae と思われるコケが群生していた(a)。一次茎は岩壁をはい、二次茎は斜めに立ち上がって、不規則な羽状に分枝し、群落全体として扁平なマットを作っている。現地の標高は460m。
 すっかり乾燥した標本は、腹側に軽く巻き込んでツヤを失っていたが、水没させると鮮やかな緑色になってツヤも出てきた(b)。葉を含めた枝は幅2〜3mm、枝の長さは1〜2.5cm。ルーペでみると、葉の基部にまるで苔類の腹片のような小舌片がみえる(c)。
 葉は広卵形〜類円形で、長さ1.2〜1.5mm、基部の縁が内側に折れ曲がる(d, e)。葉縁は全縁で、中肋はないか、ほとんど消え入るような不明瞭なものが基部にわずかに残る。
 葉身細胞は、葉の大部分では菱形で長さ15〜25μm(g)、葉頂付近では方形で長さ8〜10μm(f)、葉基部では長菱形で長さ30〜50μm(h)、いずれも厚膜で平滑。茎や枝の横断面に中心束はなく、表皮は厚膜の小さな細胞からなる(i)。念のために葉の横断面を切ってみた(j)。

 葉を4列に扁平につけ、基部の縁が小舌片状に折れ曲がり、まるで苔類のような姿をしていることから、タチヒラゴケ属 Homaliadelphus の蘚類であることは、ルーペをみた瞬間に分かった。保育社の図鑑によれば、この属には日本産3種とあるが、平凡社図鑑では日本産1種とされ、タチヒラゴケ H. targionianus とその変種であるヒメタチヒラゴケ H. targionianus var. rotundatus が掲載されている。観察結果は、タチヒラゴケを示しているようだ。
 このコケについては、2006年11月に苔類と思いこんで観察をした経緯があり(標本No.38)、強い印象が残っている。その後、2007年2月に再度詳細に観察している(標本No.116)。ルーペでみれば直ちに同定できる非常に分かり易い蘚類となったが、今日は久しぶりにまた観察してみた。今後は、採取してもポイントだけを簡単に観察してそのまま標本箱行きとなりそうだ。