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[標本番号:No.512   採集日:2008/09/04   採集地:宮城県、蔵王町]
[和名:フナバハグルマゴケ   学名:Oligotrichum hercynicum]
 
2008年9月13日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今月初め宮城蔵王の刈田岳山頂近くに行った折り(a)、火成岩の窪みに赤黄色を帯びた微細なコケがついていた(b)。ルーペでみると、どうやらスギゴケ科 Polytrichaceae の蘚類らしい(c)。岩の窪みにピンセットの先をねじ込み、掘り起こすようにして何とか7〜8個体を採集した。
 茎は高さ2.2〜2.5mm、乾燥すると葉が茎に密着し、湿るとやや開く(d)。葉は、長さ1.5〜2mm、鞘部は卵形で、鞘部の肩から披針形に伸び、葉先は鈍く尖り、上半部がボートの底のように深く凹んでいる。葉縁には1細胞からなる微細な歯がある(f, g)。ルーペでも分かるほど、腹側の薄板が大きく波打っている(e, f)。
 鞘部の葉身細胞は、長さ10〜20μm、方形〜矩形で(h)、鞘部から上部の葉身細胞は、長さ10μm、類円形〜方形(g)。複数ヵ所で、葉の横断面を切り出してみた(i)。腹側の薄板は、高さ6〜9細胞で、中肋上に6〜8列がならび、大きく波打つ。背側の薄板は、葉頂付近と鞘部以外に、高さ1〜3細胞のものが中肋上や葉身部の背面にある。茎には明瞭な中心束がある(l)。

 ルーペでみたとき、これは先に観察した標本No.466と同じく、イボタチゴケモドキ Oligotrichum aligerum だろうと思った。ところがよく見ると、葉の形がやや異なり、おまけにすべての葉の上部は舟状に大きく凹んでいる。さらに、腹側の薄板が左右に大きく波打っている。標本No.466では、腹側の薄板はこれほど極端な波打ちをしない。軽く波打つ程度である。本標本では、背面に薄板をもたない葉もかなりある。
 これらから、No.466の標本とは別の種類かもしれないと思い、平凡社図鑑と Noguchi "Moss Flora of Japan" の検索表にあたった。すると、解説にはタチゴケモドキとイボタチゴケモドキの2種しかないが、検索表によれば、フナバハグルマゴケ O. hercynicum という種がある。Noguchi にあたってみると、背丈はかなり違うが、観察結果とよく符合する部分も多い。
 もしかすると、No.466もイボタチゴケモドキではなく、フナバハグルマゴケなのかもしれない。ただ、両者の標本を並べて比較すると明らかに違いがある。そこで、No.466はとりあえず、これまでのままとした。