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[標本番号:No.594 採集日:2009/02/28 採集地:埼玉県、さいたま市] [和名:コメバキヌゴケ 学名:Haplocladium microphyllum] | |||||||||||||
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2月末にさいたま市の公園で採集した蘚類を観察した。木陰の石碑脇の地面に、多数の朔をつけ薄い層をなして群生していた(a)。乾燥すると、葉がやや縮れ軽く茎に密着し、湿ると広く展開する(b〜e)。茎は不規則羽状に分枝し、柔らかく繊細で、茎の途中から朔をだす(f)。 茎葉は長さ0.8〜1.2mm、広卵形で急に細くなり、針状となって伸びる。葉縁には小さな歯があり、中肋が葉先に達する(g, h)。枝葉は茎葉より小さく、卵状披針形で、長さ0.7〜0.9mm、中肋は葉先に達する(g, i)。 茎葉の葉身細胞は、不規則な方形〜多角形でやや角ばり、長さ8〜15μm、中央に一つの大きな乳頭があり葉縁の細胞は平滑(j)。茎葉の先端部では長楕円形で、長さ20〜35μm(k)。翼部はあまり発達せず、方形の細胞が並ぶ(l)。枝葉の葉身細胞は、茎葉のそれとほぼ同じ。枝葉の横断面で、中肋にはガイドセルもステライドもない(s)。 苞葉は幅広の鞘部をもち披針形で先は長く伸び(n, o)、内側の苞葉は披針形で先端はさほど伸びない(p)。外苞葉では中肋が先端から突出するが、内苞葉では中肋ははっきりしない。内苞葉の葉身細胞は線形で、長さ30〜50μm(q)、基部では矩形の細胞となる(r)。 |
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茎や枝の表面は平滑で、毛葉などはみられない(s, t)。茎の横断面で弱い中心束がみられ、表皮はやや厚膜の小さな細胞からなる(u)。 胞子体は赤褐色の長い朔柄をもち、長さ25〜30mm。朔は傾いてつき、非相称で、円錐形の蓋、僧帽型の帽をつける。朔柄表面は平滑(v, w)。採集した標本の朔はすべて未成熟だったので、朔歯や胞子の観察はできなかった。朔の基部には気孔がある(x)。 シノブゴケ科 Thuidiaceae の蘚類だろう。平凡社図鑑の属への検索表をたどると、ハリゴケ属 Claopodium に落ちる。ハリゴケ属の検索表をたどると、ナガスジハリゴケ C. prionophyllum となる。種の解説を読むと、発生環境以外は観察結果とおおむね一致する。ただ、気になるのは、図鑑に「石灰岩上に生える」と書かれていることだ。本標本は公園の地表に群生していた。すぐ脇には大理石の石碑があったが、そこには着いていなかった。さらに図鑑には「矮雄をつくる」とあるので、朔をつけた茎の枝葉を詳細に観察したが、見つけることはできなかった。
[修正と補足:2009.03.31] |
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この蘚類をコバノキヌゴケ属 Haplocladium ではなくハリゴケ属と考えた最大のよりどころは、茎や枝に毛葉が見られない、ということだった。その結果としてナガスジハリゴケとしたが、ここにはいくつかの気になる点があった。 (1) 発生環境が人家近くの地表であることそこで、はたして本当に茎や枝に毛葉がないのかどうか、葉身細胞の突起は葉の背腹両面にないのか、これらを中心に再度観察してみた。その結果、茎には目立ちにくく小さな毛葉があることが分かった(ac, ad)。任意の個体から数十枚の葉でチェックしたところ、茎葉や枝葉の葉身細胞には、背面にのみ突起があることが確認できた。 そこで、新たな観察結果を加味して検索表をたどり直すと、コバノキヌゴケ属に落ちる。ついで、属から種への検索表をたどると、ノミハニワゴケ H. angustifolium となる。種の解説を平凡社図鑑、Noguchi (Part4 1991)で確認してみると、観察結果とほぼ一致する。また、「人家近くにも生え、春先にいっせいに赤褐色の朔柄をだして美しい」という記述にも納得できた。 ご指摘ありがとうございました。
[修正と補足:2009.03.31 その2(pm)] |
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