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[標本番号:No.604 採集日:2009/03/08 採集地:栃木県、栃木市] [和名:クジャクゴケ 学名:Hypopterygium fauriei] | |||||||||||||
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出流山満願寺奥の院脇の石灰岩壁は一面にタチヒラゴケ Homaliadelphus targionianus に覆われている(a)(alt 400m)。その一隅にクジャクゴケ科の蘚類がややまばらに着いていた(b)。明褐色の朔柄をつけた個体も一つだけあった(c)。一次茎はタチヒラゴケと絡み合って石灰岩上を這い、そこから二次茎を出していた。二次茎は斜上し、上部でうちわ状に多くの枝を分ける。二次茎基部から枝先までの長さは1.5〜2cm(d, e)。乾燥すると縮んでしおれる(f)。 各枝には左右二列の側葉と腹面に腹葉が規則的に密に並ぶ(g〜i)。側葉は卵状楕円形で、長さ1.3〜1.5mm、左右非相称、葉縁には1〜2細胞列からなる舷があり、葉先は尖る。中肋が葉先近くまで達し、葉面を左右不均等に分ける。中肋に分けられた葉面は、枝先側(上側)が広く縁には下部まで歯があり、枝基部側(下側)では葉上部にだけ歯がある(h〜k)。 腹葉は類円形で、葉先は細長く突出し、長さ0.8〜1mm、左右相称で、中肋が葉先に達し突出部に連なる。葉縁には舷があり、葉先から葉下部の縁には歯がある(l)。 |
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側葉の葉身細胞は、葉の中央で六角形〜菱形で、長さ20〜30μm(m)、葉先付近ではやや小さく(n)、葉基部では25〜40m(o)、いずれも平滑でやや厚壁。腹葉の葉身細胞も側葉とほぼ同様だが(p)、突出した先端部では長い菱形(q)、基部ではやや薄膜(r)。葉の横断面は、側葉も腹葉もほぼ同様で、中肋にステライドはなく葉身細胞より小さな細胞が並ぶ(s, t)。 外苞葉は短く幅広で中肋があり側葉と似た姿、最内側の内苞葉は短く幅広の卵形で、両者の間の苞葉は長卵形で先端は急に細くなって伸びる。内苞葉には中肋はないか、ほとんど目立たない(u〜w)。内苞葉の葉身細胞は、長い六角形で、長さ40〜60μm、やや厚壁(x)。茎の横断面に中心束はない(y)。枝の横断面にも中心束はない。 |
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朔柄は茎の上部につき、長さ2cmほどで、明褐色(c)。朔は傾いてつき、卵形で非相称、長さ2.5〜3mm(z)。朔歯は二重で、それぞれ16枚からなる(aa)。口環の有無は不明瞭。外朔歯は披針形で、下部には横条があり表面は微細な乳頭に覆われ、尖端部は透明でやや大きな乳頭に覆われる(ab〜ad)。内朔歯は高い基礎膜をもつ(ab, ae)。朔の基部には気孔がある(af, ag)。朔柄の表面は下部では平滑だが、上部では小さな乳頭が見られる(ah〜aj)。
各枝が同一平面上で分枝し、全体がクジャクの羽のような形となることから、クジャクゴケ属 Hypopterygium の蘚類に間違いない。保育社図鑑の検索表をたどると、朔柄の色および側葉中央の葉身細胞のサイズ、さらに中肋の長さで二つに分かれる。観察結果からヒメクジャクゴケ H. japonicum におちる。種の解説は非常に簡単なので平凡社図鑑を見ると、これもまた解説が短く、あまりにもあっけない。Noguchi (Part4 1991) を参照すると、詳細な解説がされていた。観察結果の数値とはいくらかのズレがあるが、ヒメクジャクゴケに間違いなさそうだ。
[修正と補足:2011.1.1] |
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これをみると、No.604の側葉では中肋が葉頂部からかなり下で消えている。一方、No.887の側葉では、いま少し葉頂部の近くまで達している。側葉の中肋を軸に幅広側の葉縁にある歯は、No.604では葉の下半部にまであり、No.887では上半部の途中までしかない。 両者の側葉なり腹葉を、同倍率の対物レンズで見ると細胞が網目のように見えるが、その網目の粗さが明らかに違うことがはっきり分かる。No.604では網目が大きく荒いが、No.887では網目が小さく目が詰んでいるように見える。これは葉身細胞の大きさが明らかに違うからだ。そこで、葉身細胞の大きさを計測すると、No.604では25〜45μm、一方No.887では15〜25μmとなる。 保育社や平凡社図鑑の説明を読むと、No.604はクジャクゴケの特徴がみられ、No.887はヒメクジャクゴケの特徴がみられる。なお、腹葉の中肋の長さはあまり安定した形質ではないようだ。 |
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