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[標本番号:No.634 採集日:2009/05/03 採集地:栃木県、宇都宮市] [和名:コメバキヌゴケ 学名:Haplocladium microphyllum] | |||||||||||||||||||
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今月初めゴールデンウイークに宇都宮市の公園(alt 180m)で、朔をつけた蘚類を採集した(a)。純群落を採集したつもりで、標本番号などを記して放置したままになっていた。袋を開いてみると、ハイゴケ科(b)、アオギヌゴケ科(c)、シノブゴケ科(d)の3種が複雑に絡み合っていた。朔をつけていたのはシノブゴケ科の蘚類だった。そこで、標本番号はこのシノブゴケ科蘚類に与えることにして、観察することにした(e)。湿らすと葉をやや展開させた(f)。茎ははい、不規則羽状に枝をだし、枝表面には披針形〜三角形の毛葉がやや疎らにつく(r, s)。 茎葉は長さ1.2〜1.8mm、広卵形で急に細くなって鎌形に曲がる。中肋は葉頂に達し、尖鋭部では中肋のみとなる(g, h)。茎葉の葉身細胞は、扁平な多角形で、長さ8〜15μm、上半部の縁には目立たない微細な歯がある。翼部は未分化で、葉基部では方形の細胞が並ぶ(j)。 枝葉は卵状披針形〜卵形で、長さ0.6〜1.2mm、低倍率の顕微鏡で背面を見るとザラついて見える(k)。葉縁には微細な歯があるようにも見える。枝葉の葉身細胞は、多角形で、長さ8〜15μm、背面の葉身細胞には中央に一つの乳頭がある(l, m)。腹面の葉身細胞では乳頭はあまり目立たない(n)。枝葉基部は、茎葉と同じように方形の細胞が並ぶが、翼部は発達していない(o)。枝葉の横断面で、中肋にはガイドセルもステライドもない(p)。 茎の横断面には、弱い中心束があり、表面は厚膜の小さな細胞が表皮を構成する。茎や枝の表面には毛葉を持たないものもある。また、下部の茎には毛葉はない。毛葉の細胞は、茎や枝の葉身細胞とほぼ同様だが、乳頭はみられない(s)。 |
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朔柄は赤褐色で、長さ25〜30mm、表面は平滑(e, f)。朔は傾いてつき、非相称。蓋は円錐形、帽をつけたものは既になかった。朔歯は二重で、外朔歯と内朔歯はそれぞれ16枚からなり、ほぼ同長(u)。外朔歯と内朔歯を分離してみた(v, w)。 外朔歯の下半には横条があり、上半部には微細な乳頭がある(x, y)。内朔歯は高い基礎膜をもち(z)、歯突起と間毛がよく発達している(aa)。内朔歯上半部にも微細な乳頭がある。 朔の基部周辺には気孔がある(ab, ac)。胞子は球形で小さく、径10〜12μm。なお、口環の有無ははっきりとは分からなかった。雌苞葉については画像と記述を省略した。
平凡社図鑑でシノブゴケ科から属への検索表をたどると、ハリゴケ属 Claopodium とコバノキヌゴケ属 Haplocladium が候補に上る。ハリゴケ属では、ふつう毛葉はなく、朔の蓋には長い嘴があるとされる。一方、コバノキヌゴケ属では、ふつう毛葉があり、気孔と口環があるとされる。両属からは、ナガスジハリゴケ C. prionophyllum とコメバキヌゴケ H. microphyllum が候補に残る。 |
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