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[標本番号:No.663   採集日:2009/07/05   採集地:群馬県、沼田市]
[和名:アオモリミズゴケ   学名:Sphagnum recurvum]
 
2009年7月10日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 植物体、(b) 標本、(c) 乾燥標本、(d) 開出枝と下垂枝、(e) 茎の表皮、(f) 茎の横断面、(g) 茎と茎葉、(h, i) 茎葉、(j) 茎葉背面先端、(k) 茎葉背面中央、(l) 開出枝の葉

 久しぶりにコケの観察をする時間がとれた。先日、ミズゴケから生えるキノコの観察に群馬県沼田市の湿原を訪れた。そのおり、オオミズゴケからミズゴケタケとキミズゴケノハナが発生しているのを確認できた(「きのこ雑記」→「今日の雑記 2009.7.6」)。

 水中に出ていたミズゴケを観察した(a)。茎は短く3〜5cmだが、いずれも下部が腐食してちぎれていた(b)。ていねいにとれば6〜10cmだったと推定される。乾燥すると枝葉の縁が波打つ(c)。下垂枝は開出枝より短い(d)。茎の表皮細胞は長方形で平滑で表面に孔はない(e)。茎の横断面で表皮細胞は複数層あるようだが、木質部との境界は不明瞭。
 茎葉は長さ0.8〜1.0mm、やや卵状の三角形で、先端部はわずかに総状に裂けている。葉縁の舷は葉頂に達し、基部では幅広くなるが、葉中央部から先では広がらない(h, i)。茎葉の先端の透明細胞には背腹両面に貫通する孔がある(j)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 開出枝の葉、(n) 開出枝の葉背面上部、(o) 同背面中央、(p) 開出枝の葉腹面上部、(q) 同腹面中央、(r) 開出枝の葉横断面、(s) 枝の表皮、(t) 枝の横断面、(u) 下垂枝の葉背面上部、(v) 同背面中央、(w) 下垂枝の葉腹面上部、(x) 同腹面中央

 開出枝の葉は長さ1.4〜1.6mmで卵状披針形(l, m)、透明細胞には背腹両面ともに貫通する孔が少数みられる(n〜q)。特に下垂枝の葉背面には、透明細胞の先端に貫通する孔が顕著にみられる(u, v)。枝葉の横断面で葉緑細胞は三角形で、背面側により広く開き、腹面側にはわずかに開いている(r)。枝の表皮細胞で、レトルト細胞の首は短い(s, t)。

 平凡社図鑑でミズゴケ属の検索表をたどると、すんなりとハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata に落ちる。次いでハリミズゴケ節の検索表をたどると、アオモリミズゴケ S. recurvum に落ちる。種の解説は非常に簡略だが、観察結果と同様のことが記されている。さらに滝田(1999)の記載を読むと観察結果とほぼ一致する。サンカクミズゴケ S. recurvum var. brevifolium や コサンカクミズゴケ S. recurvum var. tenue ではなさそうだ。