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[標本番号:No.672   採集日:2009/07/11   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ヒラハミズゴケ   学名:Sphagnum subsecundum var. platyphyllum]
 
2009年8月5日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a) 水中の植物体、(b) 植物体の一部、(c) 採集標本、(d, e) 枝の付き方、(f) 茎と茎葉、(g) 茎の表皮、(h) 茎の横断面、(i, j) 茎葉、(k) 茎葉背面上部、(l) 茎葉背面中央

 先月11日栃木県の鶏頂山に登ったおり、山頂近くの沼の畔(alt 1500m)で、やや硬い感じのミズゴケが水中に群生していた(a)。茎の長さはバラツキが大きく3〜15cm、多くは枝をまばらにつけるが、中には密に枝をつけたものもある。多くの茎で、下垂枝は一般的にとても短いが、開出枝と下垂枝を区別できない枝も多い(d, e)。
 茎の表皮細胞は長方形で、表面には螺旋状肥厚も孔もなく(g)、茎の横断面で、表皮細胞は1〜2層で木質部との境界は明瞭(h)。茎葉は大きく、長さ1.8〜2.4mm、深く舟型に凹み、楕円形(i, j)。茎葉の透明細胞は、背腹両面ともに、上部でも中央部でも、横糸が整然と密に並び(k〜n)、茎葉の横断面でも、背腹両面にほぼ同じ幅で、葉緑細胞が開いている(o)。なお、茎葉の透明細胞の腹面には、わずかに偽孔が見られるが、ほとんど孔はない。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 茎葉腹面上部、(n) 茎葉腹面中央、(o) 茎葉横断面、(p) 枝の表皮、(q) 枝の横断面、(r, s) 枝葉、(t) 枝葉背面上部、(u) 枝葉背面中央、(v) 枝葉腹面上部、(w) 枝葉腹面中央、(x) 枝葉横断面

 枝の表皮細胞には2列のレトルト細胞があり、レトルト細胞の首は短い(p, q)。枝葉は長さ2.0〜2.4mm、楕円状披針形で、先端が左右に歪んだものが目立つ(r, s)。枝葉の透明細胞には、背腹両面ともに、上部から中央部まで、横糸が整然と並び、縁には小さな孔がある(t〜w)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は樽型で、背腹両面に同じように開いている(x)。より詳細に観察するために、油浸100倍の対物レンズで茎葉の透明細胞を確認してみた(y〜ab)。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(y) 枝葉背面上部、(z) 枝葉背面中央、(aa) 枝葉腹面上部、(ab) 枝葉腹面中央

 茎の表皮に螺旋状肥厚がなく、枝葉の横断面で葉緑細胞が背腹両面に開いており、透明細胞に整然と横糸が密集し小さな子孔をもち、枝葉の先端が歪んでいることから、ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecund の蘚類だろう。
 平凡社図鑑で種への検索表をたどると、やや迷うが、ヒラハミズゴケ S. subsecundum var. platyphyllum に落ちる。ついで、同図鑑でヒラハミズゴケについての解説をみると、ユガミミズゴケ Sphagnum subsecundum の変種とされ、「開出枝と下垂枝の区別が不明瞭」で「茎葉と枝葉とほぼ同大で、広楕円形」、「枝葉の(透明細胞の)孔は互いに離れて配列」とある。
 滝田(1999)には、「水に浸る中間湿原にはえる」「環境による変化は大きい種であるという」とある。また、「茎葉は大きく、長さ1.2〜2.3mmで深く凹み、楕円形になるのはこの種の特徴(他のユガミミズゴケ節の種では茎葉は舌型〜舌状三角形になる)。茎葉の上部の80〜90%に、枝葉の透明細胞と同じように糸があるのもこの種の特徴」とある。
 先に観察したヒラハミズゴケ(標本No.638)と比較すると、やや硬い感じで、茎の長さのバラツキが激しいが、ヒラハミズゴケとして間違いなさそうだ。