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[標本番号:No.672 採集日:2009/07/11 採集地:栃木県、日光市] [和名:ヒラハミズゴケ 学名:Sphagnum subsecundum var. platyphyllum] | |||||||||||||
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先月11日栃木県の鶏頂山に登ったおり、山頂近くの沼の畔(alt 1500m)で、やや硬い感じのミズゴケが水中に群生していた(a)。茎の長さはバラツキが大きく3〜15cm、多くは枝をまばらにつけるが、中には密に枝をつけたものもある。多くの茎で、下垂枝は一般的にとても短いが、開出枝と下垂枝を区別できない枝も多い(d, e)。 茎の表皮細胞は長方形で、表面には螺旋状肥厚も孔もなく(g)、茎の横断面で、表皮細胞は1〜2層で木質部との境界は明瞭(h)。茎葉は大きく、長さ1.8〜2.4mm、深く舟型に凹み、楕円形(i, j)。茎葉の透明細胞は、背腹両面ともに、上部でも中央部でも、横糸が整然と密に並び(k〜n)、茎葉の横断面でも、背腹両面にほぼ同じ幅で、葉緑細胞が開いている(o)。なお、茎葉の透明細胞の腹面には、わずかに偽孔が見られるが、ほとんど孔はない。 |
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枝の表皮細胞には2列のレトルト細胞があり、レトルト細胞の首は短い(p, q)。枝葉は長さ2.0〜2.4mm、楕円状披針形で、先端が左右に歪んだものが目立つ(r, s)。枝葉の透明細胞には、背腹両面ともに、上部から中央部まで、横糸が整然と並び、縁には小さな孔がある(t〜w)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は樽型で、背腹両面に同じように開いている(x)。より詳細に観察するために、油浸100倍の対物レンズで茎葉の透明細胞を確認してみた(y〜ab)。 |
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茎の表皮に螺旋状肥厚がなく、枝葉の横断面で葉緑細胞が背腹両面に開いており、透明細胞に整然と横糸が密集し小さな子孔をもち、枝葉の先端が歪んでいることから、ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecund の蘚類だろう。 平凡社図鑑で種への検索表をたどると、やや迷うが、ヒラハミズゴケ S. subsecundum var. platyphyllum に落ちる。ついで、同図鑑でヒラハミズゴケについての解説をみると、ユガミミズゴケ Sphagnum subsecundum の変種とされ、「開出枝と下垂枝の区別が不明瞭」で「茎葉と枝葉とほぼ同大で、広楕円形」、「枝葉の(透明細胞の)孔は互いに離れて配列」とある。 滝田(1999)には、「水に浸る中間湿原にはえる」「環境による変化は大きい種であるという」とある。また、「茎葉は大きく、長さ1.2〜2.3mmで深く凹み、楕円形になるのはこの種の特徴(他のユガミミズゴケ節の種では茎葉は舌型〜舌状三角形になる)。茎葉の上部の80〜90%に、枝葉の透明細胞と同じように糸があるのもこの種の特徴」とある。 先に観察したヒラハミズゴケ(標本No.638)と比較すると、やや硬い感じで、茎の長さのバラツキが激しいが、ヒラハミズゴケとして間違いなさそうだ。 |
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