[標本番号:No.786 採集日:2009/10/14 採集地:岩手県、一関市] [和名:スギバミズゴケ 学名:Sphagnum capillifolium]
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2009年11月23日(月) |
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(a) 植物体、(b) 採取標本、(c) 標本上部、(d) 開出枝と下垂枝、(e) 茎と茎は、(f) 茎の表皮、(g) 茎の横断面、(h, i) 茎葉、(j) 茎葉背面上部、(k) 同前:背面中央、(l) 同前:腹面上部 |
栗駒山中腹にはいくつもの湿原がある。駐車場からそう遠くない湿地のやや高くなったところに一部が濃紅紫色を帯びた小形のミズゴケが大きな群落を作っていた(a, b)。遠くからみると黄緑色一色のように見えたが、近づいてみると頭部や上部が赤紫色を帯びていた(alt 1160m)。
茎は高さ6〜9cm、黄緑色から淡紅色で、表皮細胞は矩形で孔はなく、横断面で表皮細胞は3層で木質部とは明瞭な境界を作っている(f, g)。
茎葉は二等辺三角形〜舌状三角形で、長さ1.1〜1.3mm、葉頂に数個の歯がある(h, i)。茎葉の透明細胞には薄膜があって全体に糸と孔があり、腹面の透明細胞には偽孔もある(j〜l)。
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 (q) |
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(m) 枝の表皮、(n) 枝の横断面、(o, p) 枝葉、(q) 枝葉:背面上部、(r) 同前:背面中央、(s) 同前:腹面上部、(t) 同前:腹面中央、(u) 同前:腹面中央の縁付近、(v) 下垂枝の葉:腹面上部、(w, x) 枝葉の横断面 |
枝の表皮には首の短いレトルト細胞が2〜3列に並ぶ(m, n)。枝葉は長卵状披針形〜楕円状披針形で、長さ1.5〜2.2mm、透明細胞背面には双子孔や三子孔が多数あり、透明細胞の側面には三日月形の偽孔がある(q, r)。透明細胞腹面にはまばらに貫通する孔があり(s, t)、葉縁の透明細胞腹面には貫通する孔が並ぶ(u)。下垂枝の葉は楕円状披針形で、長さ2.1〜2.4mm、透明細胞の腹面には貫通する大きな孔が縦に多数並ぶ(v)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は二等辺三角形〜台形で、背腹両面に開き、腹面側により広く開く(w, x)。
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 (ac) |
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(aa) 雄器をつけた標本、(ab) 雄器をつけた枝、(ac, ad) 枝葉を取り除いた状態、(ae) 雄器部分拡大、(af) 雄器、(ag, ah) 雄苞葉、(ai) 同前:背面上部、(aj) 同前:背面中央、(ak) 同前:腹面上部、(al) 同前:腹面中央 |
採集した標本には雄器が多数ついていた(aa, ab)。雄器をつけた付近は濃い赤紫色の苞葉に包まれていて、この葉を少しずつ取り除くと、アドバルーンのような姿をした雄器が姿を現した(ac〜af)。念のために、雄苞葉?の透明細胞の様子を記録しておいた(ag〜al)。雄器を観察したのは標本No.726 (ハリミズゴケ)以来のことだった。
茎や枝の表皮に螺旋状肥厚がなく、枝葉は細長く先端が狭く鋭頭、茎葉の基部で舷が広がり、枝葉の横断面で葉緑細胞は腹面側に広く開くことから、スギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia のミズゴケに間違いない。
平凡社図鑑の種への検索表をたどってみた。「A. 茎葉は二等辺三角形,先端は狭い切頭で鋸歯があ」り、「B. 植物体は一部または全体が紫赤色を帯び」、「C. 枝葉は不明瞭に5列に並ぶ。枝葉中央部腹面の透明細胞に円い孔がある」から、スギバミズゴケ S. capillifolium に落ちる。図鑑の検索表 「C. 」にある「茎の表皮細胞に孔がある」はとりあえず棚上げにした。
平凡社図鑑の種の解説には茎の表皮細胞のことには触れず全般に簡略なので、滝田(1999)にあたってみた。観察結果とおおむね一致する。茎の表皮細胞については「横断面で2〜3層、長方形で表面にまばらに孔があるが孔がほとんど無いものまである」と記される。なお、滝田のスギバミズゴケ節検索表では、スギバミズゴケは「茎の表皮細胞に孔は無い」枝に記されている。これは平凡社図鑑とは反対の記述だ。茎の表皮細胞の孔の有無は変異の大きい形質なのだろう。
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