[標本番号:No.787 採集日:2009/10/14 採集地:秋田県、東成瀬村] [和名:ハリミズゴケ 学名:Sphagnum cuspidatum]
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2009年11月26日(木) |
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(a) 水中の植物体、(b) 採取標本、(c) 茎と枝、(d) 開出枝と下垂枝、茎葉、(e) 茎と茎葉、(f) 茎の表皮、(g) 茎の横断面、(h, i) 茎葉、(j) 茎葉の下部、(k) 茎葉背面上部、(l) 茎葉背面中央 |
10月14日に栗駒山周辺の地で採集したミズゴケをようやく観察した。標本袋を開くと、茎の下部にやや繊細な蘚類(No.791:ウカミカマゴケと苔類(No.792:ウキヤバネゴケ)が多数絡み合うように付着していた。これらを先に観察したので、本標本の観察は後回しとなった。
植物体は完全に水没状態で(a)、茎は高さ9〜15cm(b)、茎の表皮細胞は矩形で孔はなく(f)、茎の横断面で表皮細胞は2〜3層で木質部との境界は不明瞭(g)。
茎葉は二等辺三角形〜広卵状三角形で、長さ1.5〜1.8mm、先端には尖り数個の歯がある(h, i)。葉縁には舷があり基部でも舷の幅はあまり広がらない(i, j)。舷が基部でも細いままの茎葉も多数みられる。茎葉の透明細胞には背腹両面ともに糸があり、わずかに偽孔もみられる(k〜n)。
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(m) 茎葉腹面上部、(n) 茎葉腹面中央、(o) 枝の表皮、(p) 枝の横断面、(q, r) 開出枝の葉、(s) 開出枝の葉:背面上部、(t) 同前:背面中央、(u) 同前:腹面上部、(v) 同前:腹面中央、(w, x) 枝葉の横断面 |
枝の表皮には首の短いレトルト細胞が2〜3列に並ぶ(o, p)。枝葉はやや鎌状に曲がるものが多い(d)。開出枝の葉は卵状披針形〜披針形で、長さ2.1〜2.4mm、葉頂には数個の歯がある(q, r)。開出枝の葉の透明細胞には背腹両面共にわずかの偽孔があるが、貫通する孔はない(s〜v)。枝葉の横断面で、葉緑細胞は背腹両面に開き、背側により広く開いている(w, x)。
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(y) |
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(aa) |
(ab) |
(ac) |
(ad) |
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(y, z) 下垂枝の葉、(aa) 下垂枝の葉:背面上部、(ab) 同前:背面中央、(ac) 同前:腹面上部、(ad) 同前:腹面中央 |
下垂枝の葉は、長さ1.4〜2.1mm、開出枝の葉とほぼ同形でやや小振り(y, z)。下垂枝の葉の透明細胞には、背腹両面共にわずかに偽孔がみられるが、貫通する孔はない。これは開出枝の葉の透明細胞の様子とあまり変わらない。
茎葉の先は鋭頭で、枝葉の横断面で葉緑細胞が背側により広く開くから、ハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata のミズゴケだろう。ハリミズゴケ節の場合、開出枝の葉だけではなく、下垂枝の葉の透明細胞の様子を観察しないと種の同定が困難なケースが多い。このため、開出枝と下垂枝を別個に観察したが、結果は両者の間にほとんど差異がなかった。
平凡社図鑑でハリミズゴケの検索表にあたってみた。茎葉は二等辺三角形で長さ1.5mm以上であることから、候補に上るのはシナノミズゴケ S. annulatum var. porosum とハリミズゴケ S. cuspidatum に絞られる。そしてシナノミズゴケには種の解説がない。
検索表には、シナノミズゴケは「茎葉の舷は狭く,基部の幅の1/4以下」、ハリミズゴケは「茎葉の舷は広く、基部の幅の1/2を占める」とある。本標本の茎葉基部をみると、舷の幅はいたって狭い。中には茎葉上部から基部まで狭いままの舷が続いている葉もある(h〜j)。これだけみるとシナノミズゴケとなる。
しかし検索表には、さらに枝葉先端部の透明細胞についての記述が続く。シナノミズゴケは「背腹両面には貫通する孔があ多数あ」り、ハリミズゴケは「背腹両面には孔がないか,あれば偽孔」とある。本標本の枝葉先端部の透明細胞には貫通する孔はない。一部の葉でわずかに偽孔がみられる。これから判断すると、ハリミズゴケとなる。
滝田(1999)のハリミズゴケとシナノミズゴケの解説を読んでみた。シナノミズゴケの解説には、茎葉の舷のことには全く触れず、枝葉の透明細胞について「背面に縁のやや明瞭な孔があり、腹面には貫通する孔が透明細胞の縁に並び(似ているハリミズゴケに比較して孔は多い)偽孔がまばらにある」と記されている。
一方ハリミズゴケの解説には、枝葉の透明細胞について「背面にほとんど孔はないか、ときに小さな偽孔がある。腹面の透明細胞には偽孔と不明瞭な孔がまばらにある(シナノミズゴケの様に、縁に多数の孔が並ぶことはない)」と記されている。
これらのことから、茎葉の舷の幅は不安定な形質で、枝葉の透明細胞の孔は比較的安定的な形質と思われる。上記からハリミズゴケと考えた。
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