(a, b) 植物体、(c) 標本:湿時、(d, e) 開出枝と下垂枝、(f) 乾燥時の枝葉、[以下サフラニン染色] : (g) 茎と茎葉、(h) 茎の表皮、(i) 茎の横断面、(j) 枝の表皮、(k) 枝の横断面、(l) 茎葉と枝葉 |
6月6日に日光市のやや乾燥気味の中間湿原(alt 1400m)にスギバミズゴケ節 Sect. Acutifolia のヒメミズゴケ S. fimbriatum と思われるミズゴケが群生していた。現地で目視とルーペによる観察から、枝葉は乾燥しても縁が波打たず、茎葉の先端が扇状に開き、枝葉の葉緑細胞の底辺は葉の腹面側にあるらしいことが読み取れた。
枝や茎の表皮細胞を観察せずとも、肉眼的形態からミズゴケ節 Sect. Sphagnum でないことはすぐわかる。さらに、枝振りと枝葉の形からキレハミズゴケ節 Sect. Insulosa、キダチミズゴケ節 Sect. Rigida、ウロコミズゴケ節 Sect. Subsecunda のいずれでもないことはわかる。枝葉を高倍率の実体鏡か顕微鏡でみれば、ユガミミズゴケ節 Sect. Subsecunda か否かは直ぐわかる。残る節はスギバミズゴケ節とハリミズゴケ節 Sect. Cuspidata の二つだけとなる。この判定には、葉緑細胞の底辺が背腹いずれにあるか見ればよい。
そこで、最初に枝葉を一枚、背面側を上にしてスライドグラスに寝かせた。ユガミミズゴケ節ではない。次いで腹面側を上にして観察した。枝葉の横断切片を作らずとも、背腹いずれの側に葉緑細胞の底辺が位置するかはこれで充分わかる。結果は現地で観察したとおり、スギバミズゴケ節のミズゴケであった。そうなると、次に観察すべきは茎葉の形となる。本標本の茎葉は扇状で、上半部に舷はなく、ささくれる。候補はヒメミズゴケだけとなる。
ヒメミズゴケはすでに何度も観察し「覚書」にもアップしているが、これは比較的簡単に同定できるミズゴケだと思う。アップするのはやめようかと思ったが、先日のヒナミズゴケ S. warnstorfii (標本No.953) と同様に、文字による記述は省略して、各形質の状態の画像だけを掲載しておくことにした。
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