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[標本番号:No.0971   採集日:2010/06/12   採集地:長野県、山ノ内町]
[和名:オオサナダゴケ   学名:Plagiothecium neckeroideum]
 
2010年9月6日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本、(d) 乾燥時、(e) 湿時、(f) 葉先に無性芽をつけた葉、(g) 葉、(h) 葉:葉先に仮根や無性芽をつけている、(i) 葉、(j) 仮根をつけた葉、(k) 無性芽をつけた葉、(l) 葉身細胞

 6月12日に長野県の志賀高原で採集(alt 1600m)したサナダゴケ属 Plagiothecium と思われるコケを観察した。湿度の高い岩穴入り口近く、ホソバミズゴケやミヤマスギバゴケなどと混生していた。植物体は黄緑色で、茎は不規則にわずかに分枝し、葉を含めた茎の幅は2.5〜3.5mm。
 葉は強く扁平につき、長さ2〜2.5mm、非相称で、葉身上半の縁が波打つものもある。葉先は鋭頭で、茎や枝の下部の葉では葉先に仮根をつけたり無性芽をつけたものが多い。葉縁は全縁。中肋は弱く二叉して短い。枝の側面につく葉では片側が不均等に強く折れ曲がる。
 葉身細胞は線形で、長さ60〜100μm、幅5〜6μm、薄膜でほぼ平滑。葉先近くでは短い菱形〜扁平多角形。翼部は明瞭に分化することなく、15〜20μmと幅広の細胞が連なる。葉基部は狭く下延する。葉先につく無性芽は紡錘形で3〜4つの隔壁を持つ。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
(m) 葉の上部、(n) 葉の翼部、(o) 無性芽をつけた葉先、(p) 無性芽、(q) 朔柄基部の苞葉、(r, s) 雌苞葉、(t) 雌苞葉の葉身細胞、(u) 雌苞葉の先端、(v) 雌苞葉の基部、(w) 茎の横断面、(x) 茎と葉の横断面

 雌苞葉は下半が筒状となった披針形で、葉先は本体の葉と比較して鋭く細長い。葉身細胞は線形で、長さ50〜90μm、幅6〜10μm、基部では矩形となる。雌苞葉の中肋は不明瞭。茎の横断面で、表皮細胞は薄膜大形で、基部近くから中程までの茎では中心束が見られる。
 朔柄は赤褐色で、長さ10〜14mm、平滑。朔は円筒形で、長さ1.2〜1.5mm、やや傾いてつき、ほぼ相称。朔歯は二重で、各々16枚。外朔歯は披針形で、上部は乳頭に被われる。胞子は球形で、径10〜18μm。朔の基部には気孔がある。
 
 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
(ae)
(ae)
(af)
(af)
(ag)
(ag)
(ah)
(ah)
(y) 胞子体、(z) 朔:湿時、(aa) 朔:乾燥時、(ab) 朔歯、(ac) 外朔歯と内朔歯、胞子、(ad) 外朔歯上半、(ae) 外朔歯下半、(af) 胞子、(ag, ah) 朔基部の気孔

 採取した標本には朔をつけた個体はわずかしかなく、そのすべてに蓋はなく、多くは朔歯も崩れていた。朔歯を内朔歯と外朔歯に分離しようとしたが失敗した。それもあって、内朔歯をていねいに観察することはできなかった。
 観察結果に基づいて平凡社図鑑のサナダゴケ属の検索表をたどると、オオサナダゴケに落ちる。保育社図鑑の検索表でも同様の結果となる。両図鑑の解説はほぼ同じ文面であり、観察結果とおおむね一致する。ただ、葉の「上半部が強く波打つ」、葉身細胞の「表面に細菌のような細かい肥厚がみられる」という二つの記述を充分満たすような観察結果は得られなかった。