[標本番号:No.0979 採集日:2010/07/25 採集地:秋田県、にかほ市] [和名:ヒシャクゴケ属 学名:Scapania sp.]
|
2010年9月11日(土) |
(a) |
(b) |
(c) |
(d) |
(e) |
(f) |
(g) |
(h) |
(i) |
(j) |
(k) |
(l) |
(m) |
(n) |
(o) |
(p) |
(q) |
(r) |
|
(a, b) 標本、(c, d) 茎の上部腹面:湿時、(e, f) 茎の上部背面:湿時、(g, h) 茎の下部腹面:半乾燥、(i, j) 茎の下部背面:半乾燥、(k) 葉、(l, m) 葉:背片と腹片、(n) 葉のキール部、(o) 腹片、(p) 背片、(q) 腹片の先端付近、(r) 腹片の側付近 |
秋田県にかほ市象潟の目貫谷地周辺(alt 300m)で流水中に出ていたタイ類を観察した(ab)。油体については、先にしくじっているので(標本No.969、No.970)、今日までチャックつきポリ袋に入れて冷蔵庫に保管しておいた。このため、油体は採取時の状態を保っていた。
茎は長さ6〜8cm、分枝は少なく、腹面からムチゴケ型ないしクチキゴケ型分枝をする(ac, ad)。仮根は茎の腹面にごくわずかに散生する(h)。葉は接在ないし離在し、不等に二裂して強く二つに折れ曲がり、折れ目は明瞭なキールとなり、大きな腹片とやや小さな背片になる(k〜n)。乾燥すると葉は茎から開き気味になる(g〜j)。キールの幅は腹片の長さの1/4、背片の長さの1/3ほど。背片は卵形で長さ1.6〜2.0mm、全縁。腹片は卵形で長さ2〜3mm、上半部の縁は鉅歯状で、葉の基部は茎に下延する。歯は単細胞の三角形。
|
|
(s) |
(t) |
(u) |
(v) |
(w) |
(x) |
(y) |
(z) |
(aa) |
(ab) |
(ac) |
(ad) |
|
(s) 腹片の縁の葉身細胞、(t) 腹片中央部の葉身細胞、(u) 腹片基部付近の葉身細胞、(v, w) 油体、(x) 葉のキール部横断面、(y) 葉の横断面、(z, aa) 茎の横断面、(ab) 流水中、(ac, ad) 茎の分枝 |
葉身細胞は多角形〜扁平な六角形で、中央部で長さ25〜30μm、基部近くで35〜50μm。葉の辺縁部の細胞はほかよりやや小さい。いずれもやや厚膜でトリゴンはなく、表面には微細なベルカがある(y)。油体は各細胞に6〜12個あり、長径6〜12μm、、球形〜楕円形で、微粒の集合状。茎の横断面で、表皮がよく発達しており、厚膜の小さな細胞からなる。表皮細胞の表面には微細なベルカがある。
花被をつけた個体はなかった。無性芽らしきもの見あたらない。採取時にはツボミゴケ科 Jungermanniaceae のタイ類だと思ったが、ルーペでよく見ると、葉が強く折れ曲がって背片と腹片に分かれて、茎を抱くような姿となっていた。そこでヒシャクゴケ科 Scapaniaceae ヒシャクゴケ属 Scapania のタイ類ではないかと検討をつけた。
平凡社図鑑の検索表からはムラサキヒシャクゴケ S. undulata が比較的近い。図鑑の解説によれば、ムラサキヒシャクゴケは「トリゴンが小さく,表面がほぼ平滑」「無性芽は2細胞からなる」とある。しかし、本標本の観察結果はこの記述とは異なる。また、先にムラサキヒシャクゴケと同定した標本No.212とは肉眼的印象がまるで異なり、茎の横断面の様子もかなり違う。
|
|