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[標本番号:No.1011 採集日:2010/10/11 採集地:高知県、本川村] [和名:コウヤケビラゴケ 学名:Radula kojana] | ||||||||||||||||
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高知県本川村の自然公園の小さな沢で、水のしたたる岩に苔類が密生していた(alt 600m)。現地でルーペでみると腹葉はなく、腹片は背片の1/2以下で方形をしていたことからケビラゴケ属 Radula だろうと思った。 茎は長さ1〜2.5cm、側面で1〜2回コマチゴケ型ないしケビラゴケ型に分枝する。仮根が腹片の基部に束生する。背片は倒瓦状に重なり、円形〜広卵形、長さ0.4〜0.6mm、全縁、葉先はわずかに狭くなり円頭。腹片は方形、背片の1/2長以下で基部がわずかに茎を被う。キールは長くほぼ直線状。葉身細胞は多角形で長さ15〜20μm、薄壁でトリゴンはなく、表面は平滑。茎の表皮細胞は矩形〜扁平な多角形で、油体が各細胞にひとつあり、横断面では表皮細胞は薄壁。葉身細胞には各細胞に1〜3個の油体があり、楕円形〜紡錘形で、微粒の集合。眼点を持った油体もみられる。無性芽などはみられない。
花被などをつけた個体は見あたらなかった。平凡社図鑑の検索表からはヤマトケビラゴケ R. japonica に落ちる。種の解説を読むと観察結果とおおむね符号するが、油体については異なる。図鑑の検索表ではヤマトケビラゴケの「葉身細胞の油体は,各細胞に1個,眼点はない」と書かれている。一方すぐ下の行にエゾノケビラゴケ R. obtusiloba が並び、これは「葉身細胞の油体は各細胞に(1〜)2個,しばしば眼点がある」と書かれている。しかし、エゾノケビラゴケは「背片はしばしば脱落する。」「ブナ帯以上」とも書かれる。これは観察結果とは異なる。さらにヤマトケビラゴケに似たものとしてシゲリケビラゴケ R. javanica があり、これは「葉がややもろく」「葉身細胞に小さいトリゴンがある」という。これは観察結果とは異なる。
[修正と補足:2010.11.21] |
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十数個体にあたってみた結果、多くの葉は先端がやや尖った卵形〜楕円形で(m〜p)、保育社図鑑のカラーページに掲載されるコウヤケビラゴケの図とよく似ている。この時点でコウヤケビラゴケのようだと思った。そこで、かなり探してみたが、無性芽はみつからなかった。 つぎに、倍率を上げて葉身細胞をみると、油体の様子が先に見たもの(k)とは異なり、各細胞には褐色で大形類球形の油体がひとつだけ含まれていた(t, t')。複数種の混在を疑ったが、同じ茎についている別の葉をみると、先の油体(k)と同じものが見えた(q, q')。そこで同一個体の別の葉の葉身細胞を見ると、それらのいずれとも異なる球形の油体が2〜3個含まれていた(r, r')。 さらに同一個体の別の葉では、これらの油体が混在し、両タイプの葉身細胞は明瞭な区画をなしている(s, s')。その一方で一部の個体からは、油体がかなり失われ始めていた。 つまり、同一個体の葉身細胞に、以下の3タイプの油体が混在している。茎の表皮では、どの部分の表皮細胞にも油体は大形褐色の微粒塊が一つだけしかない。
では、コウヤケビラゴケとしてよいかというと、やはり疑問を感じる。「葉縁に豊富」とされる無性芽がなく、トリゴンがほとんどなく、油体に複数タイプがあることだ。ケビラゴケ属についてのモノグラフをまだ入手していないので、何ともいえないが、平凡社図鑑と日本産苔類図鑑からは該当種を見つけられない。現時点ではケビラゴケ属不明種としておくことにした。
[修正と補足:2010.12.29] |
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