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[標本番号:No.1026 採集日:2010/10/12 採集地:愛媛県、久万高原町] [和名:コウヤケビラゴケ 学名:Radula kojana] | |||||||||||||||||||
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四国の面河渓で水流脇の湿った岩盤に着いていた苔類を観察した(alt 750m)。暗緑色〜緑褐色で、茎は2〜3cm、羽状に複数回枝分かれする。葉の背片は倒瓦状に重なって互生につく。背片は長さ0.4〜0.6mm、卵形で全縁、ほぼ円頭だが、一部の葉では先端が鋭頭となって腹側に内曲する。腹片は背片の2/5以下の幅で三角形〜四角形、基部では袋状となる。腹片の凸部には、随所に仮根の束がある。葉のキールは長く、凸状となり、茎と60〜70度の角度をなす。複葉はない。無性芽などはみられない。 葉身細胞は多角形で、長さ20〜35μm、膜は薄く、表面はマミラ状で平滑、トリゴンは小さい。油体は類球形〜楕円形で、各細胞に1〜3個あり眼点を持つ。トリゴンは、茎上部の暗緑色の葉では小形で球形だが、葉の基部から中央部の褐色を帯びた葉ではやや大形で楕円形〜紡錘形のものが目立つ。両者とも眼点があることは共通だ。 花被などをつけた個体はなかった。葉を倒瓦状につけ、腹片が四角形ないし三角形で、腹葉がないこと、などからケビラゴケ属 Radula の苔類だと思う。平凡社図鑑の検索表を何度たどってみても、観察結果を満たす種にたどり着けなかった。保育社の図鑑でも結果は同じだった。解説のある掲載種のいずれも観察結果とはなじまない。葉の位置によって油体のタイプが変わることなどは、先にケビラゴケ属とした標本No.1011とよく似ている。さらにこの標本の腹片は、開口部が不明で閉じた袋構造となった葉がとても多い。
[修正と補足:2010.12.29]
そもそも、平凡社図鑑の検索表をたどれなかった最大の理由は、冒頭の「A. 背片は鋭尖」か「A. 背片は円頭」という記述にあった。標本の葉の形はどう見ても「円頭」ではあっても、「鋭尖」とは捉えにくかった。そこで、見方を変えて、標本No.375のヤマトケビラゴケ R. japonica の葉形と比較してみた。No.375の葉は「円頭」であり、これと比較すると、本標本およびNo.1011の葉形は「円頭」とは言い難い。そこで、「鋭尖」と捉えると、すんなりとコウヤケビラゴケに落ちる。そして、種の解説を読むと、油体の形に一部疑問は残ってもほぼ、観察結果と符合する。
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二つの標本から、いくつかの枝を取り出してみた。茎本体の葉は両者ともに崩れたものが多くて、先端の形がわかりにくくなっているので、比較的若い枝の葉で比較してみた(1026a, 1011a)。葉先の形は「鋭尖」とは言い難いが、「尖頭」であり明らかに「円頭」ではない。さらに、無性芽の有無と形についても、それらしいものが着いている葉をさがしてみた。 無性芽をつけた葉は非常に少なかったが、一部にみられた。葉の縁にゴミか泡が着いたような形をしている(1026b, 1026c)。標本No.1011ではよく見ないと見落としてしまいそうだ(1011b)。これは、倍率を上げてみようとしたところ、崩れ落ちてしまったので、撮影しなかった。すでにNo.1011の油体は完全に消失していた(1011c)。 |
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