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[標本番号:No.1185   採集日:2017/06/12   採集地:栃木県、日光市]
[和名:イワツキヤスデゴケ   学名:Frullania iwatsukii]
 
2017年6月13日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(a, b) 植物体:乾燥時、(c) 植物体:湿時、(d) 標本:湿時、腹側、(e) 背面:倒瓦状、(f) 腹面:腹片と腹葉、(g) 腹片、腹葉、スチルス、(h) 背片と腹片、(i) 腹葉、(j) 眼点細胞、(k) 油体、(l) 眼点細胞と油体

 コケの観察を再開してからほとんど蘚類ばかりしか見ていない。4月1日に葉状体のヤマトフタマタゴケを観察したのが唯一の苔類で、茎葉体については一つも観察していなかった。
 奥日光を散策しているときに茎葉体の苔類を観察してみようと思い、ふと遊歩道脇の樺とそこに密着している柵に目をやると、暗褐色の苔類が目に留まった。よく乾燥していたが(a, b)、霧吹きで湿らせると両者とも背片は倒瓦状だった(c)。念のために両者を別袋で持ち帰った。

 持ち帰った樺に着いていた標本から一部を取り外して、水没させたのち腹面を上にしてみると、腹葉と丸い筒状の腹片があることが分かった(d)。この時点でヤスデゴケ科(Frullaniaceae)であることがわかった。柵についていた方の苔類も同じようにしてみると、ほとんど同じ形態をしていた。これで、両者とも同一種であると判断した。樺と柵とは触れ合っていて、この苔類はその両者にまたがって植物体を広げていたから、当然といえば当然なのだろう。

 植物体は光沢のある暗茶褐色で、茎は基物の表面をはい、不規則に羽状に枝分かれをして、長さ1〜2cm、葉を含めた幅は0.8〜1mm。葉は卵形の背片と丸みを帯びた筒状の腹片からなり、先端が二裂した腹葉がある(g, i)。腹葉の根元にはスチルスが見られる(g)。
 背片は倒瓦状に重なり(e)、卵型で全縁、円頭で基部は耳状になり(h)、一列の眼点細胞がある。眼点細胞の数は10〜18個ほどある(e, j)。腹片はフットボール型の筒状で、茎とほぼ平行に並ぶ(f)。腹葉は茎径の1.2〜2.5倍の幅で先端が葉長の1/4〜1/3ほどまで二裂し、葉縁はほぼ全縁(f, g, i)。油体は微粒の集合からなり紡錘形で、一細胞に8〜10個ほどある(j, k)。眼点細胞の中央には大きな微粒の塊がひとつある(l)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(m) 裂開した朔、(n) 朔と花被、(o) 朔と弾糸、(p) 弾糸

 観察を終えて標本をしまうために別種が混成していないか再確認をしたところ、別種の混生はなかったがたったひとつだけ、四枚に裂開した朔が見つかった。先が嘴状になった花被も見え、朔片には弾糸いくつもへばりついていた(m)。顕微鏡下でみると花が咲いたかのようだ(n)。倍率を上げて裂片と弾糸を見た(o, p)。

 当初シダレヤスデゴケだろうと考えたが、いずれのサンプルも葉が円頭でひとつとして尖頭のものは見られなかった。過去にも同様の標本をみて迷ったが(標本No.0632)、ここではイワツキヤスデゴケとして扱った。No.0632もイワツキヤスデゴケとした方が妥当なのかもしれない。